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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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いつもの様に水沢を待ってると、珍しく眉間にしわを寄せ、携帯を睨みながらやってきた。

いつもの様に水沢を待ってると、珍しく眉間にしわを寄せ、携帯を睨みながらやってきた。
「どーした?」
「んー。最近、バッテリーがなくなるのが早い気がする」
「バッテリー?」
「昨日充電したんだけど」
ひょいと覗き込むと、すでに半分なくなっていた。
「メールや通話のしすぎじゃねーの?」
「んー。そんなにしてないつもりなんだけど・・・変え時かなぁ」
ふうとため息をついた。
「カタログ、もらいに行かなきゃ」
その台詞に、俺は思いを巡らせる。
「駅前、寄り道するか?」
「え?」
「ショップあったろ?」
「え・・・でも」
あからさまな、遠慮顔。
「その程度の寄り道なら、別にいいぜ」
「本当?」
「ああ」
軽く笑みを浮かべてみると、
「じゃあ、お願い」
と、笑みを返された。
ああ・・・これが、俺にだけ向けられる俺のオンナの笑顔だったらと思うと、少し、悔しかった。

ショップでカタログをもらった後、さらに水沢は考え込んでいた。
そのまま帰れるのか怪しい状態だったので、手近なファーストフードショップに入ることになった。
いや・・・ハタから見れば、これはデートだろ。
「何、迷ってんだよ?」
「うーん。どれに変えようかって」
カタログをめくる音。
「メーカーとかデザインとか機能で選ぶだろ、フツー」
「うーん。別に、これっていう基準がないんだよねぇ」
「今のヤツは?なんでソレ、選んだんだよ?」
「友里がおそろいにしよう?って」
機種変する時に立会い、つられて変えて、その際に色違いにしたらしい。
「ノンポリだなぁ、お前」
そう言われても、反撃もない。
「そー言えば・・・」
テーブルの上に置かれていた携帯を見る。
ストラップすら、ついていない黒い携帯。
「もーちょっとオンナノコらしーカワイイ携帯とかにしろよ」
「?」
カタログから顔を上げて、小首をかしげる。
あ・・・ばかやろー。
んな顔すんなよ。
「白とかピンクとかでさ、かわいいストラップ付けてさ」
「んー。でも、邪魔じゃない?」
「だーかーらー。そーゆー発想よせって」
その言葉に、目つきがキツクなる。
「じゃあ、疾風とおそろいにするとかさぁ」
なんで俺が、そーゆー気遣いをしなきゃいけねーんだ。
そんな俺の気持ちも知らずに、水沢はまた、カタログに視線を落とす。
「うーん」
なんだかなぁ。
二の句がつげずに、とりあえずドリンクのストローを口にした時だった。
「神崎さん?」
女の声が降ってきた。
「あ・・・鎌田さん、小宮さん」
水沢の視線の先には、同じ制服を着た女が二人。
それぞれトレーを持っていた。
クラスメートか。
「珍しいね。神崎さんがこんな所にいるなんて」
「うん。ちょっと、寄り道」
「あ、ケータイ?」
「うん。機種変しようと思って」
「私もちょっと、考え中だったんだよね〜。カタログみせて〜」
水沢の方に近かった女が、するりと自然に水沢の隣の席に座った。
「・・・」
もう1人は、俺に気を使っている様子だった。
ま、いっか。
無言で隣の椅子を引いてやると、軽く会釈して座った。
「あのね、私はこのメーカーのちょっと古い機種なんだけどぉ・・・」
その二人も一緒にカタログを覗き込みながら、あれこれと話す。
女同士の方が、なんとなく話が盛り上がっているような気がする。
まあそうだ。
一応、水沢はオンナだ。
なんとなく居心地が悪いが、水沢の、女同士だからこその表情が見れるのは、何とも言えなかった。
そして、話しながら水沢が自分のコーヒーに手を伸ばした時だった。
「あれ?」
「どーしたの、神崎さん?」
「もうちょっと飲みたかったんだけど、飲み終わってた」
天然だな、コレは。
「充槻、まだ時間ある?」
「ある」
「飲み物買ってくるけど、いる?付き合ってくれたから、奢ってあげる」
「・・・じゃあ、コーヒー」
「分かった」
にっこり笑うと、女二人にも一応断ってから、席を立った。
その水沢の背中を見送ってから、1人が・・・あ、小宮って言ってたな。
即座に、小宮が口を開いた。
「神崎さんの彼氏、ですか?」
そうきたか。
「まさか」
「じゃあ?」
遠慮のないオンナだな。
「ただのダチ」
「毎日送り迎えしてる人、ですよね?」
こっちは、鎌田って言ったっけ?
「ああ」
「けっこう有名ですよ?」
「だろーな。鷹ノ台と大戸じゃ、つりあいとれねーもんな」
そう言うと、二人とも「分かってるんだ」と言いたげな表情だった。
「あの。神崎さんの彼氏って、知ってます?」
と、小宮。
「は?」
「神崎さん、絶対にそういう話しないから」
だろうな。
「でも、キスマークついてるの、着替えの時とかに何回も見てるんで」
バカだな、疾風。
「・・・一応、知ってるな」
一瞬考えてから、俺は言った。
「え!どんな人ですかっ!」
小宮が思いきり身を乗り出してきて、食いついてきた。
鎌田も、興味津々な顔。
「いいヤツだぜ」
「年上ですか?年下ですか?」
「下、だな」
生年月日で言えば、だが。
「ええっ!意外!」
おもしれー位に、大袈裟に反応する。
「神崎さんのことだから、年上の大人の男だと思ってたのに〜」
く・・・おかしい。
くすくす笑っている俺を、鎌田が不思議そうな顔をしてみている。
「なにが、おかしいんですか?」
「いや・・・あいつのイメージって、そうなんだなってさ」
そうやって俺がくすくす笑ってると、水沢が帰ってきた。
「神崎さん!」
小宮にえらいイキオイで話しかけられ、軽く驚いてる。
「神崎さんの彼氏って、年下なんだって?」
「え?」
座ろうとして、中腰で固まって、
「みつきぃ?」
次の瞬間には、睨まれる。
「わりーわりー」
「殺されたい?」
そう言いつつも、買ってきたコーヒーを手渡してくれる。
「お前にだったら、いいぜ」
「あのね」
大きなため息をつく。
「ね、どんな人?ねえ?」
食い下がる小宮。
「そういう事は言わない主義なの」
あっさりと一刀両断だ。
その笑顔が、逆に怖い。
「え〜」
水沢の強い口調に、つっこみきれないでいる。
「随分余裕のある人なんだね」
「え?」
鎌田に視線が移る。
「毎日、自分の彼女が他の男に送り迎えしてもらってるのに、嫉妬もしないんでしょ?」
あー、なるほど。
「確かに、あいつはいい度胸してるな」
「充槻!」
「俺が手ぇ出さないって信じてんだろ?」
「精神的に大人、かぁ」
「ちょっとかっこいい」
くく・・・褒めすぎ。
「あ〜あ。やっぱり神崎さんの彼氏って、いい男なんだねぇ」
うらやましそうなため息をつく、小宮。
「あんたがい〜いオンナになれば、い〜いオトコができるって」
「え?そうかな?」
「たぶん」

水沢は、数日後に機種変した。
それに付き合ったのは、疾風じゃなくて俺だった。
違うだろ、フツー。

そして、年が明けてから数日後、水沢から俺のカブが上がったと言われた。
小宮のせい、らしい。
よくはわからないが。
ま、そんなコトもあるらしい。




あとがき

「雛菊の勲章」という題名は、某ジャンルの人々には有名な宝野アリカさんのふる〜い歌の歌詞…を聞き間違えていたのですが(大汗
ただ「雛菊の」というフレーズと、その歌自身が、女の子の側からの恋愛に関することを歌った歌、でした。
その、かわいらしいイメージが好きで…女の子特有の恋愛話に関する盛り上がりがこの話の外で行われたいただろう事を考えて、拝借しました。
設定的には、悠宇が高2、2学期の終業式あたりです。
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