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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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「たいくつー」

「たいくつー」
暖かい春の昼下がり。
怪我で無理矢理にベッドに縛り付けられてりる勇樹は、退屈極まりなかった。
子供を助けて車道に躍り出た勇樹は、横っ飛びしながら子供を抱えると、その勢いのまま、車道を転げた・・・らしい。
かすり傷と打撲、縁石にぶつけて額から出血し、肩から道路に落ちたために右肩を軽く骨折、避けたはずの車に左足を轢かれ骨折。
頭を打っているかも?とのことで、脳関係の検査、という日々を送っていた。
「んー」
うららかな春の陽気は、睡魔を誘ってくる。
もう少しすれば、授業を終えた先輩か、殆ど毎日必ず来てくれる母親がくるはず・・・その前に、勇樹は昼寝をしようかと、そう思った。
が。
コンコン、と病室のドアがノックされる。
「どうぞ?」
ノックしてから入ってくるなら、先輩じゃぁない。
ドアのほうに視線を送ると、長身の制服姿の男が入ってきた。
「?」
その顔に、見覚えはない。
「あの?」
部屋、間違えました?と言おうと思った時だった。
「水沢 勇樹?」
「え?あ・・・はい?」
少し警戒気味だった瞳が、勇樹の返事で柔らかく弧を描いた。
「俺は山梨の室田」
「室田?」
「聞いてない?」
「聞いたこと、あるようなないような・・・」
勇樹は記憶の中を探る・・・山梨の人間の名前なら、きっと美作先輩や臣人先輩あたりから聞いているハズだろう。
「残念・・・」
くすりと笑う。
そして、勇樹と向かい合うようにして、ポケットに手を突っ込んだままベッドの端に腰かけた。
「事故で怪我したって?」
「あ・・・まあ」
「なんで?」
「車に轢かれそうになった子供を助けて・・・」
すると、するりと手を伸ばし、勇樹の前髪を掻きあげた。
「なにコレ?」
額に張られたガーゼ。
「その時、切った」
「ふうん・・・で、松原や美作は?」
「先輩?そろそろ来るんじゃ?」
何の気なしに勇樹が言うと、室田は一瞬、目を見開く。
「え?松原より年下?」
「うん」
こくりと頷く。
「まさか、小学生?」
「あのなぁ」
さすがに勇樹は頬を膨らませた。
「あ、悪いね」
口では悪いと言ったが、目が笑っていた。
「小さいって、よく言われてるけどね」
勇樹は軽くにらみつけた。
「じゃあ、中1?」
「はい」
「ふうん」
「あの・・・で、何の用?」
そう勇樹が言った時だった。
「勇樹!」
という声と供に、ドアが勢いよく開いた。
「あ、先輩」
二人でドアの方を見ると、軽く臣人が固まっていた。
が、次の瞬間にはあからさまに表情を変えた。
「室田!てめー、何の用だよっ!」
飛び掛らんばかりの勢いで詰め寄ると、室田は眉一つ動かさずに左足をひょいと上げると、臣人の胸の辺りに足を当て、その動きを止めた。
「ここ、病院。それに俺は、やりに来たわけじゃないって」
「よしなよ、臣人」
臣人の腕を、後ろから正が掴んだ。
「俺は水沢に用があって来たんだよ。お前に用はない」
「!」
「臣人!」
正は臣人の腕を掴んだまま、制した。
「美作は?」
「もうすぐ来ます」
正が答える。
「今回の件で横浜を潰そうとしてるやつらもいるらしいけど、俺は違うから」
そう言いながら、室田は立ち上がった。
「横浜の下についてやるよ」
「?」
勇樹は小首をかしげ、臣人と正は息を呑んだ。
「気に入ったよ、水沢。また来るから」
にこりと笑うと、勇樹の頭を軽くなぜた。
そして身を翻すと、ちょうど病室を出ようとした時に、美作と鉢合わせた。
「ちょっといいか、美作」
「ああ」
「じゃあな、水沢」
ひらひらと手を振る。
「はあ」
なんとく、勇樹は室田に向かって頭を下げた。
そして、室田は出口に向かいつつ、廊下を歩きながら美作に話しかけた。
「水沢を引き入れたのは、松原?」
「臣人のほうから喧嘩売って」
「アレ、気が短いからなぁ」
なるほど、と言った表情を作った。
「それより・・・いいのかよ?」
「は?」
「あれ、女だろ?いや、嵐山にいるのが問題だけど」
「まあ・・・」
美作の額には、冷や汗が流れた。
「何で分かったんだよ?」
「見りゃわかる。まあ、それは俺の知ったことじゃねーけど」
くすりと笑う。
「つーか。なんであんなにちっちぇえのに、ケンカ強いんだ?」
「なんか、習ってたみたいで」
「なんかって、何だよ?」
「本人も言わないんでよくわかんねーんだけど。小回りが利いて度胸がよくて、相手の懐に入ったと思ったら関節技使って終わり、みたいな」
「関節技?」
「確実に関節狙ってるらしくて」
「ふうん」
やりたくねぇなぁ・・・そんな言葉を、室田は飲み込んだ。
「まあ・・・これから横浜の下につくから、何かあったら連絡しろよ」
「え?」
さすがの美作も突然の台詞に、足を止めた。
「じゃあな」
呆然としている美作に後ろ向きで手を振って、室田は去っていった。
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