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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 霊園の入口から歩くこと数分・・・そぼ降る雨の中に、人影が見えた。

 霊園の入口から歩くこと数分・・・そぼ降る雨の中に、人影が見えた。
それが誰なのか分って、2人は示し合わせたわけでもなく、共に歩みを止めた。
雨が降っていることすら知らない素振りで、たたずむ細い肩。
「神崎・・・」
9月の、自宅での出来事もそうだったが、あまりにも不意打ちだった。
学校で見ている姿とのあまりの差に、呆然とするほかない。
成績はトップ。
何事もソツなくこなし、女子からも男子からも教師からも嫌われることもない。
「ちょうどいい」場所や距離を確実に保つ。
そんな、計算されたような姿しか見たことない悠宇の、なりふり構っていない姿。
両親の死に対する気持ちを隠すことない、裸の感情があった。
「あれから、暇があるとここに来てるんだよ」
「前にあるのは・・・」
悠宇の視線の先には、小さな建物。
「共同墓地っていうのかな。アメリカ映画に出てきそうな」
「じゃあ、あの中に神崎の両親が?」
「そう」
その表情は、少し悲しげだった。
「地方の霊園に埋葬していたら、大騒ぎするところだったよ」
「で?あの落しものを、どうやって持って帰るんですか?」
「それなんだよ」
そう言うと、ため息をついた。
「毎回失敗しているから、このザマだよ」
「でしょうね」
物理的に連れ帰ることは簡単だ。
言いたいのは、そうでないことが、麟には分った。
「連れ帰るのはできますけど、俺には、それ以上は保証できませんよ」
「それは、私も同じだから」
「とりあえず、連れて帰ればいいんですよね?」
「一応ね」
「高くつきますよ?」
笑みを浮かべて聞くと、信宗も笑みを浮かべた。
「公務員の薄給で足りるかな?」
「さあ?」
言いながら、麟は一歩踏み出した。

歩みを進めならが、麟はかけるべき言葉を探した。
が・・・信宗の要求する様なことなど、簡単にできるはずがなかった。
どっちにしろ、このままにしてはおけない。
ため息をつきながら、わずか1歩後ろのところまで距離を詰めた。
傘を差しかけたが、反応はない。
「風邪引くぞ、神崎」
返事も、ない。
「俺、前に言わなかったっけ?叔父さんに迷惑かけてんじゃねーよ、って」
ややあってから、ぽつりと返事が返ってきた。
「・・・ほっといて」
「できるか」
その言葉に、一瞬、空気が揺らいだ。
「こんな後姿見といて、週明けにお前が風邪でも引いて休んでたら、バツが悪いじゃねーか」
それでも、返事はない。
「大体、自分が世界で一番不幸みたいな態度してんじゃねーよ」
「・・・何がわかるの?」
「あ?」
「疾風に何がわかるの?」
「わかんねーよ」
その一言に、悠宇は振り返った。
雨に濡れたその顔には、涙の跡があったようにも思えたが、麟はあえて無視した。
「俺とお前は他人だし、4月に会ったばかりのただの同級生じゃねーか。分ってたまるか。お前だって俺の事、分らねーだろ」
悠宇は、まるで噛み付きそうな瞳で、麟のことを見ていた。
「唯一無二って言葉くらい、知ってんだろ?神崎悠宇は、1人しかいないんだよ。それが、誰にでも『はいそーですね』って、簡単に分るわけないだろ」
「・・・」
「分ってもらいたいなら、分ってもらえる様に努力しろよ。何もしないで分ってもらおうなんて、図々しいんだよ」
何かが通じたのか、悠宇は一度瞬きをすると、ゆっくりと視線を落としていった。
その様子を見て、麟はため息をついた。
「お前の事分らねーって言ったけど、10代で親がいなくなった辛さは、分るよ。俺は、母親だけだけどな」
「・・・ヤな奴」
うつむいたまま、ぼそりと発せられた声。
「上等だよ」
「・・・」
「風邪引く前に、帰るぞ」
そう言うと、麟は空いていた左手で悠宇の右腕を掴んで引っ張った。
悠宇は全く無抵抗で・・・麟はそのまま、悠宇を信宗のいる管理棟まで連行した。
「悠宇・・・」
管理棟の入口にいた信宗は、それ以上、何も言えなかった。
悠宇も、うつむいたままで何も言わなかった。
「あの・・・そのタオル」
信宗の手に握られていた、タオル。
同じこと、前にもやったな。
麟は直感した。
「え・・・ああ」
差し出すが、悠宇は受け取らないどころか、動こうとすらしなかった。
今日、確実に2桁になっているため息をもう1つ増やすと、
「借りますよ」
と、一応断ってから、麟は信宗の手からタオルを取った。
それを広げて悠宇の頭に被せて、そっと髪を拭いていると、すっかり濡れそぼっているパーカーが目に入った。
「神崎、パーカー脱げよ。本気で風邪引くぞ」
「・・・」
予想していたとはいえ、反応はない。
どうでもよくなって、麟は無言のままに悠宇のパーカーを剥ぎ取ると、それを信宗に手渡し、自分の着ていた紺のパーカーを肩にかけてやった。
「帰るんですよね?」
麟が振り返ると、あっけに取られたままの信宗が、
「ああ」
と答える。
「じゃ、帰りませんか」
「ああ」
信宗はばたばたと、駐車場の方に走っていった。
「帰るぞ、神崎」
そう言うと、麟は左手で悠宇の肩を抱き寄せ、上手く傘を差しかけながら、信宗の待つ車まで連れて行った。

そして、月曜日。
曇天の空の下登校すると、まるで何もなかった様な表情の悠宇の姿があった。
昨日の姿など、塵程もない。
悠宇の方から何か言ってくることもなく、麟もあえて突っ込む気もなく。
ま、いーか。
麟はそう思い、穏やかに1日が・・・そして、日々が過ぎていった。





途中のあとがき

後悔とは、後で悔やむから後悔・・・よく言ったもんです。

chapter 10と11は、書き下ろし。
本当はこんな設定じゃなかったんですが、時間がたつにつれほころびが目立つようになって・・・まあ、これなら平気だろうと。
本人はそう思って書いたんだけど、ハタから見てどうなんでしょう?(汗

ちょうど、というか・・・これからまた、状況が変わっていくので、書き終えて一息ですε=( ̄。 ̄;)フゥ

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