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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 その次の週、悠宇が欠席した。

 その次の週、悠宇が欠席した。
1日位ならば「体調不良」と誰もが思い、たいした心配をしなかったが、2日・3日と続いていくると、さすがに気になるというもの。
「なぁ、鎌田」
HRの後に優一が声をかけると、奈央は
「なあに?」
と顔を向けた。
「神崎さん、何で休みなの?理由、知ってる?」
そう問うと、奈央がため息をついた。
「それが・・・メールしても返事くれなくて」
「そっかぁ。どーしたんだろうねぇ」
そんなやり取りを、麟と要は横目で見つめていた。

結果的に悠宇は1週間まるまる休み、土曜日の帰り際に、麟は担任の片桐に呼ばれた。
「なんだよ」
「なんですか?だろ」
そう返した片桐に、麟はため息をひとつ。
「疾風、両手出せ」
「は?」
「いいから出せ」
「・・・はぁ」
ワケが分らずに麟が両手を出す。、
「これ、プリント。これ、住所と地図。神崎のところに届けてくれ」
「はい?」
ぽんぽんと紙の束が積まれ、麟は呆然とする。
「何で俺が!」
「住所調べたらお前が一番近いし、部活もやってないから時間あるだろ」
「女子に届けさせればいーじゃないスか」
「・・・聞いてなかったか?お前が一番近いんだよ」
「!」
「お駄賃やるぞ。暑いからな、これで飲み物でも買え」
と、500円玉がさらに積まれる。
「小学生かよ、俺は」
「まあ、そう言うな」
そう言うと、片桐はにまっと笑った。
「悪いとは思ってるんだ、一応」
「一応、ね」
麟はため息をついた。
「かわいそうだろう、神崎も。来月は体育祭に中間に、その後には文化祭で。早く知らせてやった方がいいだろ」
「・・・まあ」
「というワケで、頼むわ」
ぽんと肩を叩かれ・・・その瞬間、麟はうまく丸め込まれた自分に気づいた。
「ここ、かぁ」
片桐の調べてくれた地図は正確で、麟は迷うことなく神崎家へとたどり着いた。
まだわりと新しい、庭付き一戸建て。
「ふうん」
自己紹介のときに出身中をひた隠していたが、女子同士のたわいもない話の中から女子校だと分かり・・・つまり、娘を私立の中学校に入れるのに困らない程度の金銭的余裕がある家となれば、一戸建ても頷けるワケで。
「なんで、俺が・・・」
文句を言いつつ門の傍に自転車を停めると、半分開かれていた門から中に入り、玄関の呼び鈴を押した。
そして、ややあってから、玄関が開いた。
「はい?」
柔らかそうな印象の・・・悠宇の母親が出てきた。
印象としては「良家の奥様」だ。
その後ろに、一瞬、悠宇の背中が見えたような気がしたが。
「あの・・・神崎さんと同じクラスの疾風と言います。担任に頼まれてプリントを」
「まあ」
鞄から出したプリントの束を差し出す。
「わざわざ、ありがとうございます」
受け取る前に深々とお辞儀をされ、麟はなんとなく気恥ずかしくなった。
「あ・・・いえ」
と−−−その時だった。
「ふざけんなっ!!」
悠宇の悲鳴のような怒鳴り声と共に、何かがハデに割れた音が響いた。
「?!」
「!」
悠宇の母親は、息を呑んだ。
「あの・・・ちょっと」
そう言うと、麟の左腕を掴んで玄関に引き入れ、慌てて玄関を閉めた。
後で考えると、その行為は「防音」のつもりらしかった。
「ふざけんな!それだけ人をバカにすれば!!」
「悠宇!落ち着きなさい!」
先ほど音がしたリビングであろう方から、悠宇と父親の声がさらに響いた。
「許さねぇ!ぜってぇ、許さねぇ!」
ばたばたとする音がさらに続く。
「悠宇!よしなさい!!」
すると、両腕を父親につかまれたまま、悠宇が廊下に出てきた。
「!?」
麟は目を疑った。
Tシャツに短パン、というラフな格好の悠宇が、学校にいる時からは微塵も考えられない様子で取り乱していた。
「悠宇!いい加減にしなさい!」
そう言うと、無理矢理に悠宇を振り向かせ、両腕を掴んだままで壁際に追い詰めた。
一瞬、悠宇の動きが止まった・・・が、一息おいた次の瞬間。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
信じられないような音量での、悲鳴。
自分が引き起こしてしまったその状況に、一瞬たじろいだ父親は、すぐに悠宇の両肩をしっかり掴んで叫んだ。
「勇樹!!」
「!」
その呼びかけに一瞬目を見開いた悠宇は、ぴたりと抗うことを止めた。
そして、天井を仰ぎ見て一筋の涙を流すと、その場にゆっくりと崩れ落ちていった。
完全に廊下に座り込むと、その体を、父親がしっかりと抱きしめる。
「大丈夫だから。大丈夫だから・・・」
まるで子供をあやすかのように「大丈夫」という言葉を呪文のように繰り返し、悠宇の背中をなぜ続けた。
ふと、麟が母親の方を見ると、両手で口を押さえたまま、声を殺して泣いていた。





途中のあとがき

なんだか・・・麟って、基本的に何でも「巻き込まれる」体質なのか?
そんな気になってきた、今日この頃。

そして、もう1つの心配・・・何章書いたら終わるんだ?この話し。
昔から、短い話がかけないのは分っていたけど(^^;)
結局、crosswiseも20章あるよねぇ?
週1アップなのに、いつになったら終わるんだ?
すっごい不安(||゜Д゜)ヒィィィ!(゜Д゜||)

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プリント
休んだクラスメイトにプリントを届ける。
懐かしいですね。
私は届けた記憶も。届けてもらった記憶もありません。皆勤だったし、家が遠かったので^^;
学生の頃は真面目だったんだなぁ。(苦笑)
紅梅 2008/10/20(Mon)14:05:34 編集
Re:プリント
こんにちわ・・・またのコメント、ありがとうございます。

>休んだクラスメイトにプリントを届ける。
都立(県立?)高校は近所の中学から生徒が集まってくる・・・というのが、私の中の認識なので、アリかな?と。
そんな設定を組んでみました(笑
私もほぼ皆勤だったので、実体験はないですけどね。

>学生の頃は真面目だったんだなぁ。(苦笑)
今だって、真面目にお仕事されてるじゃないですか!
「学生の頃」だけじゃないと思いますよっ(*^-^)ニコ
【2008/10/20 15:40】
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