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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 まだわずかに夏の名残がある、2学期の中間テストの最終日。

 まだわずかに夏の名残がある、2学期の中間テストの最終日。
悠宇をマンションに送ったついでに、充槻は
「疾風、いるんだろ?」
と聞いて、呼び出させた。
去年の夏に偶然巻き込んだ、疾風 麟。
事情があって、今年になってから悠宇と一緒に住んでいると分った時に、充槻は一瞬、なんとも言えない気持ちになった。
同級生でもある桜井に聞いたところ、
「麟は「女なんか興味ない」ってタイプ」
と言っていたが、ここ数ヶ月間の変化に、聡い充槻はすぐに感づいた。
「なんスか?」
突然・・・突然充槻に呼び出され、マンションの共有スペースである小さな公園のような場所で落ち合った麟の表情は、不機嫌そのものだった。
「ちょっと聞きたいことがあってよ」
充槻の表情は、穏やかだった。
「他の連中に聞かれたくないだろうから」
「?」
成田は、持っていたタバコに火をつけた。
「お前さ・・・水沢と付き合ってるだろ」
「は?」
呼び出しも突然だったが、その言葉も突然だった。
「おまえを見てて気づいたんだけど」
言いながら、ベンチに腰かけた。
「どうなんだよ?」
「・・・」
「否定しないワケか。似たもの同士だな」
充槻は台詞と供に、紫煙を吐き出した。
「松原に知れたら、大事だぜ?」
「・・・」
「一緒に住んでる、ってだけでも」
充槻の余裕のある表情は、麟の癇に障った。
「・・・だったら、何だよ?」
「まあ、怒るなって」
充槻はくすっと笑った。
「水沢は強引な松原に付きまとわれてるみたいなもんだからさ、水沢がホンキなら、かわいそーだと思ってさ」
「?」
「水沢もお前も、隠す通すつもりだろ?なら、協力しようかと思って」
「は?」
充槻が、何の意図を持ってそう言っているのか、麟には検討もつかなかった。
「嵐山の連中から、庇ってやるから」
「なんで?」
「んなもん、水沢のためだよ」
「?」
「松原も嫉妬深いから、お前に手ぇ上げるくらいするぜ?」
ありそうだな・・・と麟は思った。
「松原さ、水沢は「俺のオンナ」みたいな態度とるから、ムカツクんだよ」
「で?恩でも売るつもりかよ?」
「そう、つっかかるなって」
充槻はもう1本タバコをくわえると、麟の方へも差し出した。
その様子を数秒見つめてから、麟はため息をついた。
そして、差し出されたタバコを1本貰うと、成田の横に座った。
「ほらよ」
自分のタバコに先に火をつけた成田が、ライターも差し出してくる。
「さんきゅ」
それもありがたく受けてから、麟は、一口目を大きく吸い込んだ。
少しの間、お互いに言葉を交わすこともなく、タバコをふかしていたが、そろそろ吸い終わりそうな頃になって、充槻が口を開いた。
「水沢は、何してる?」
「昼メシ作り始めた頃じゃねーの?」
「水沢の手料理、かぁ・・・どう?美味い?」
「まぁ」
「いいなぁ。俺も食いてぇ」
「成田?」
その言葉に、麟は固まった。
「悪ぃな、疾風。俺も・・・水沢にちょっかいだしたクチだから」
その後、照れ隠しの様に笑った。
「けど、俺の手には余る。あの女は」
そしてもう1本、タバコを取り出した。
「で?どうだよ、水沢は」
にやにやとした笑みを浮かべて聞いてくる。
「どう、って・・・」
冷やかされているのが分かる分、答える気が失せるというもの。
それにそもそも、人にあれこれ言うつもりなんかなく。
どう答えるべきなのかと思っていると、充槻がくすくすと笑い始めた。
「お前さ、隠し事できない性格だろ」
その様子は、おかしくて仕方がないといった風だった。
「桜井が「いいヤツ」って言ってたの、よく分かるぜ」
ある程度笑いが収まると、また充槻は口を開いた。
「水沢、い〜い女だろ」
「で。結局、何が言いたいんだよ」
「せっかく水沢がお前に振り向いたなら、捕まえとけって」
「へ?」
「水沢は、俺がちょっかい出しても、ぜんぜん俺のこと見てねーし。なにやっても、ぜんぜん振り向きもしなかった。そんな水沢が振り向いたんなら、もったいねーから手放すなって」
「・・・はぁ」
「言ったろ?水沢のためのなら、松原から庇うって言ってんだよ」
「で?結局、なんなんだよ?」
「お前・・・俺が言ったこと、聞いてたかよ?」
「まあ」
そこまで言ってから、充槻は自分がはぐらかし続けていた事に麟が気づいたと感じた。
「惚れた女が不幸になるより、幸せな方がいいって言ってんだよっ」
「・・・了解」
そう言うと、麟はベンチから立ち上がった。
「成田・・・一緒にメシ、食う?」
「は?」
今度は充槻が、その言葉に固まった。
「態度でけーな、お前」
「食うの?食わないの?」
「・・・食う」
その返事を待って、麟はデニムの後ろポケットから携帯を出すと、電話をかけ始めた。
「あ、悠宇?成田が一緒にメシ食いたいって」
「悠宇・・・ね」
心の中で、麟に対して白旗を揚げた・・・同じ様で、違う女を見ていたのだと、理解して。
そして、水沢が振り向くだけのことはあるな、と根拠もなく感じながら。
「いいってさ。来んだろ?」
「ったりめーだ」
そう言いながら、充槻もベンチから立ち上がった。
そして、もう吸えないほどに短くなったタバコを、ぴんと指で弾き飛ばした。
まるで、悠宇への思いを断ち切るかのように。
「で?昼メシって、なに?」
「さあ?カンタンなもんじゃねーの?」
言いながらマンションの入り口に向かう麟の後ろを、充槻は付いていった。





途中のあとがき

はじめ、この話はcrosswiseの最終章だったんですが、切り取りました。
この部分があってから、充槻はよりいいカンジに。
変な設定ですが、悠宇に振られてから性格が丸くなる・・・男も恋愛で変わってもいいかなぁって。

なんていうのか・・・充槻には、悠宇の後ろを守ってもらいたい。
で、麟には隣にいて欲しいんですよね。
下手なのでケンカシーン書けませんが(汗)ケンカ中、充槻は悠宇をかばっても、悠宇は充槻をかばっても、麟は悠宇をかばわないし、悠宇も麟をかばわない。
こう書くと、まるで充槻は格下扱いぽいですが、そうではなく。
戦国時代の頃の戦争で言うと、しんがりをお願いしたい。
相手を信用し、相手の力量をわかってるからこそのポジションだと思うんですけど、どうなんだろ?

題名のzipsは、直訳すると「住所」ですが、ごひいき歌手のT.M.Revolutionの曲からとりました・・・流行で言うと「インスパイアされました」と言うのかな?(笑
この曲好きで、歌詞もよくって・・・どーしてもイメージが充槻なので、使っちゃったわけです。
麟じゃあ、こーゆー歌詞はにあわないんだよなぁ。

お楽しみいただければ幸いです。
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