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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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「また、会いにくる」

「また、会いにくる」
その言葉の通りに、室田は最低でも週1回は会いに来た。
宿題を手伝ったり、一緒に留守番を仰せつかったり・・・そして何度となく、昼食どころか夕食まで一緒にとり、まるで「近所のお兄さん」と化していった。
そして、8月27日−−−。
室田が訪れると、勇樹の母親はにっこり笑って迎え入れた。
「勇樹、部屋にいるわよ」
そう言われて、勇樹の部屋のドアを叩いた。
「はーい」
「水沢、開けるぞ」
言いながらドアを開ける。
ドアを開けると半畳のスペースがあり、向かいには大きな窓。
右の壁には背の低いチェスト、左には腰高窓があり、窓に向かって本棚と机が置いてあった。
勇樹はというと、部屋の真ん中にぺたりと座り込んで、なにやら片づけをしていた。
「あれ?室田?」
顔だけ振り返る。
「何、店開いてんの?」
「寮に帰る準備」
苦笑いする勇樹。
「ふーん」
そう返しながら、室田は初めて勇樹の部屋に入った。
もともとは和室だったんだろう床には、コルクがひいてあった。
入り口の半畳の隣のスペースが押入れになっていて、下の段は収納に、上の段はちょっと改装して布団を敷き、ベッドとして使っているようだった。
「ドラ○もんみたいだな」
「いいでしょ」
にっこり笑う。
確かに、うらやましくもあるベッドだった。
「俺には無理だけどな」
「室田でかいからね」
「まーね」
室田が肩をすくめると、勇樹は視線を手元に移した。
「へえ・・・」
改めて部屋の中を一瞥する。
片付いている、というよりは、物が少ないんだろう。
山積になっているのは、机の上の宿題くらいだった・・・その机に近づく。
−−−と。
その一角に目が行く。
家族との写真など2つほどが置いてるスペースの手前に、白いミニタオル。
そしてその上に、先日贈ったジュエリーケースが置いてあった。
「・・・」
「なに?」
思わず固まった室田の雰囲気を察して、言いながら、ゆっくり立ち上がり近寄った。
そして次の瞬間・・・。
「え?え?」
勇樹を横抱きすると、室田は器用に足だけでイスを引っ張り出し、自分はイスに座ってひざの上に勇樹を乗せた。
「なんだよ!」
さすがの勇樹も怒りをあらわにしたので、室田は軽く暴れる勇樹の両腕をがっちりつかんだ。
「まあまあ。怒らない、怒らない」
「ふざけんな!」
「俺は今、すっごいうれしんだけど?」
そう言って視線を送ったその先には・・・。
「あ・・・」
さすがに、その視線の先にあるものに勇樹も気づいて、大人しくなった。
「飾ってくれたんだ?」
「だって、箱に入れたままにするわけには・・・」
次第に、抗う力が抜けていく。
「飾ってあげないと可哀想かなって」
「なるほどね」
勇樹の右手を解き、あいた左手を勇樹の背中にまわして、軽く抱きしめた。
ややあってから、軽い抗議の声が上がる。
「あの・・・放してくんない?」
視線を送ると、行き場を失った右手で襟元を掴んでいた。
「んー」
「なに?」
見つめられ、軽く頬を膨らませた。
「水沢はかわいいなぁ、と思って」
「あのね」
そうは言いつつも、頬が赤くなった。
「・・・どーせ、そーゆー事何度も言ってんでしょ」
「へ?」
思わず、室田は固まった。
「妬いてんの?」
「違うって」
「ま・・・否定はしないけどね」
「やっぱり」
「年齢と彼女いない歴が同じってのも、悲しくない?」
「・・・まあ」
腑に落ちない様な表情を作る勇樹をみて、室田はくすくすと笑った。

そしてまた夕飯をご馳走になった室田を勇樹は見送り、いつもの公園でバイクのシートに乗せられすこし話をし・・・そして、室田はそっと顔を近づけた。
大人しく瞳を閉じる勇樹。
さすがに1ヶ月近く隙を見つけては唇を重ねてくる室田に対して、まったく抵抗しなくなっていた。
それどころか、場合によって多少ではあったが、顔を近づける室田に対して唇を差し出す様なしぐさすらすることもあった。
唇を離した室田は、言った。
「また、明日会いにくるから」
「明日?」
ことんと首を傾げる。
「明日がどーかした?」
不意に勇樹の瞳が全開になる。
「あ!!」
「ん?」
「俺、明日寮に帰る」
「え?」
あまりの唐突さに、室田が驚く。
「明日?まだ夏休みは数日あるのに、か?」
「うん。言い忘れててごめん。ただ・・・休みが終わるちょっと前に帰らないと、皆が怖いから」
「怖い?」
「宿題見せたり、手伝ったりしないと」
そう言う勇樹の表情は複雑だった。
「・・・嵐山の連中のことだから、真面目に宿題やるわけないもんなぁ」
嵐山学園は、初等部・中等部・高等部・大学部のどの学年でも、基本的にスポーツに力を入れている学校だった。
正直なところ、成績はあまりよくない。
そうでなくとも、普通に宿題なんてやりたいものではない。
軽くため息をつくと、室田は勇樹の髪に右手を伸ばした。
「じゃあ、こうやって会えるのはこれで最後って事か」
「いや・・・会えなくなるわけじゃないんだけど」
「嵐山に帰った水沢にそう簡単に近づけない・・・って事なんだけど?」
にっこりと笑う。
「・・・ごめん」
「いいよ。水沢が悪いわけじゃない」
言われて、勇樹は視線を落とした。
「でも・・・」
「じゃあこれが、最後のキスかな?」
「!」
その言葉に赤くなった勇樹に、顔を近づける。
「好きだよ、水沢」
「室田・・・」

そして−−−まさか本当にこれが最後のキスになるなど、二人とも思っていなかった。





途中のあとがき

とりあえず・・・とりあえずこれで、瞳編は一旦終了です。
次は、充槻編。

しかし・・・瞳編と充槻編、同じくらいの長さになりますかねぇ(汗
瞳編だって、まだまだあります。
不安だ。
1日分の話を1話ってルールにしているんですけど、次の充槻の話は長い(汗
どうやって分割しましょう?
そしてその分、章が増える・・・うーん(-_-;
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