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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 結局、ドン引きされていることなどまーったく気に掛けなかった充槻は、暗くなるまで居座った。



 昼食前に来て昼食も取り、3時のお茶もご一緒し、夕飯まで食べてから・・・それでも名残惜しそうに帰っていたのだ。
 あまつさえ、帰る時など、
 「じゃあな、おじょうさま」
 と、水沢の「み」の字も、疾風の「は」の字も口にしなかった。
 「ちょっと、びっくりしたかも」
 見送りに行った悠宇はリビングダイニングに戻り、抱えていたおじょうさまを下ろしながら、悠宇は思わず口にした。
 「俺、ドン引き」
 麟の口調は、かなりうーんざりしたものだった。
 「充槻がネコ嫌いじゃないのは知ってたけど・・・」
 その後の言葉がなくても、言いたいことは分かった。
 とにかく、おじょうさまとひっついていたのだ。
 呆れるくらいに、ネコ好きだったのだ。
 視線の高さを合わせるために、リビングに寝転がりもした。
 せめてもの救いは、動物好きにはありがちな、赤ちゃん言葉を使わなかったことくらいだった。
 「よかったなぁ、遊んでもらえて」
 充槻がいなくなったら俺かよ?と思いつつも、麟は自分の足元に座ったおじょうさまを抱き上げた。
 「にゃぁ」
 「幸せだったろ?」
 その問いかけには返事をせず、ぽてぽてと麟の腕を軽く右手で叩いた。
 「疾風」
 「ん?」
 「にゃ?」
 悠宇の問いかけに、何故か、麟とおじょうさまの2人(?)が振り向いた。
 「ネコ語、分かるようになったじゃん」
 「はあ?」
 「みゅ」
 麟が固まると同時、おじょうさまは麟の顔を仰ぎ見た。
 「片づけする間、おじょうさまをよろしく」
 固まる麟をよそに、悠宇はキッチンへと向かった。
 「みゃぁ」
 「?」
 呼ばれた様な気がして、麟はおじょうさまに顔を移した。
 「俺は違うと思うぞ」
 「・・・」
 そのまま、たっぷりと2人(?)は見つめあっていた。

 ベッドに入ってうとうととしていると「カリカリ」という不思議な音が聞こえてきた。
 「?」
 思わず麟は、頭を起した。
 窓からではないという事は、即座に分かった。
 もしもそうであれば、窓ガラスをひっかく、生理的に嫌な音がするはずで。
 「・・・」
 いやぁな予感を抱えつつも、麟は起き上がってドアの方に向かった。
 そしてドアを開けると、ふわふわとした何かが足元をすりぬけて行った。
 「をい」
 足元をすりぬけて行ったのは、おじょうさまだった。
 リビングの明かりはとっくに消えていたにも関わらず、リビングの片隅に置かれた寝床から麟の部屋まで来た事になる。
 そして、麟のベッドのまくら元にちょん、と鎮座した。
 「神崎の所に行けよ」
 返事はなく、しっぽをぱたりと振る。
 「なんで俺?」
 「みゃう」
 「・・・」
 暗闇の中、うすぼんやりと見えるその表情には、下手すると笑みが浮かんでいる様に錯覚した。
 「首に乗るなよ」
 「みゃう」
 意思が伝わったとは思えなかったが、追い払うのもきっとムリだろうと、麟は実感した。
 「・・・ったく」
 あきらめてベッドに潜りこむと、おじょうさまも「寝る」との如く、丸くなった。
 「・・・おやすみ」
 「にゃ」
 溜め息と同時に、まんざらでは何かの気持ちを抱えて、麟は目を閉じた。

 次の日の朝、目を覚ました麟の視界に入ったのは、まっ白い毛玉だった。
 「・・・」
 ゆるゆると動きだした思考回路が、つたないネコ語が通じた事を理解した。
 首の上に、襟巻よろしく乗っかるのをやめてもらう事に成功していたのだ・・・かと言って、夜を共にすることをは避けられなかった事も、同時に理解した。
 まあ、いーか。
 「ぉい、朝だぞ」
 どこか頭かお尻か分からない白い毛玉を、ぽむぽむと叩くと、
 「にゅ」
 と、寝ぼけた声が返ってきて、頭動いて麟の方を見た。
 「ふみゃぁ」
 起きぬけのあくびを、アリーナで眺めてから、麟は起き上がった。

 特に問題なく朝食を終え、やはり何故か判らないがおじょうさまに張りつかれつつも午前中を無事に過ごし、そろそろ3時になろうかという頃、悠宇の携帯が鳴った。
 簡単にやり取りをしてさっさと電話を切ると、ぱたぱたと支度を始めた。
 おじょうさまが、お帰りになるのだ。
 自分の部屋においていたらしいバッグに持って来たものを詰め、おじょうさまを抱き上げた。
 「おじょうさま、バイバイして」
 ソファに座っていた麟の側まで連れてきて、そう言った。
 「またな」
 無意識にそう言い、麟はおじょうさまの頭を撫ぜた。
 「下まで行ってくる」
 「はいよ」
 「じゃ、帰ろ」
 そして、おじょうさまをバスケットに入れ、そのバスケットを持ち上げた時、だった。
 「みゃう!」
 「おじょうさま!」
 バスケットから、おじょうさまは飛び出したのだ。
 そして、一直線に麟の方へと走ってきたのだ。
 「お前・・・」
 自分の目の前にちょこんと鎮座したおじょうさまを、茫然と見つめた。
 ふと見やると、悠宇が珍しく茫然とした表情でおじょうさまを見ていた。
 「・・・ったく」
 溜め息をひとつついてから、麟はおじょうさまを抱き上げた。
 「困らせるなよ、お前」
 「みゅぅ」
 ちいさく、返事をした。
 「ほら」
 そう言ってバスケットに入れようとすると、がっしりと爪を立てて抵抗した。
 「をい!いてーっつーの!」
 「随分、疾風のこと気に入ったんだね」
 ぽつりと悠宇がつぶやく。
 「理由、聞いてくれよ」
 「うーん」
 そう言って、小首を傾げた。
 「悪いんだけど、一緒に下まで行ってくれる?」
 「え?」
 麟は思わず固まった。
 「あ・・・いや、いーけど」
 「にゃあ」
 「お前に言ってねーつーの」
 麟の呆れ顔とは正反対に、おじょうさまは尻尾をぱたりと振った。

 駐車場で待っていた、悠宇の叔父であり養父である信宗は、麟が一緒に来た事を訝しむ表情を作った。
 「なんか、おじょうさま、疾風のことが気に入ったらしい」
 「ふーん」
 悠宇からバッグを受け取りつつ、呆気にとられながらも返事をした。
 「珍しいよね」
 「確かに」
 信宗が頷く。
 「そう、なんですか」
 「このネコ、基本的に女好きだから」
 「へ?」
 「おばあさまのネコだから」
 信宗に続き、悠宇も予想だにしなかった事を口にした。
 「じゃ、成田は?」
 「あれは『かまってくれた』から」
 「・・・はい?」
 麟の思考回路は、すっかり停止した。
 「じゃあ疾風くん、ここに入れて」
 助手席にバスケットを固定し終えると、信宗がニコリと笑った。
 「はあ」
 キツネにつままれた様な気分だ。
 そして、バスケットにおじょうさまを入れて手を離すと、おじょうさまが麟の手をはしっとキャッチした。
 「あの~」
 麟は脱力した。
 「ダメだよ、おじょうさま」
 「・・・」
 悠宇の言葉が通じたのか、ゆっくりとその手を下ろす、おじょうさま。
 「みゅ」
 なんとなく、しょぼんと耳がたれた様な気がした。
 「またな」
 麟がゆっくりなぜると、じーっと麟を見つめた。
 そしてややあってから、麟の手をぺろりと舐めた。

 どうにか送り出し、エレベーターに乗っていると、悠宇がくすりと笑った。
 「なに?」
 「んー。随分、おじょうさまは疾風を気に入ったんだなぁ、って思うとおかしくて」
 「女好きなんて、聞いてなかったぞ」
 「言う必要ないかな、って」
 「をい」
 麟は思いっきり、顔をしかめた。
 「でもまあ」
 「?」
 「動物好きに悪い人はいない、って言うから」
 そう言って笑みを浮かべた悠宇は、麟には小悪魔に見えた。





あとがき

 なんで、こんな話に3話もかけてるんですか?
 ・・・と、自分に突っ込むゞ( ̄∇ ̄;)ヲイヲイ

 んー、たぶんやっぱり、ネコと絡む麟が見たかったのかもしれません・・・そんだけ?
 麟は基本的に、懐かれる人です。
 正義しかり・・・ある意味、悠宇や充槻も好意を持ってますからね。

 くだらない話にお付き合いくださり、ありがとうございます。
 お楽しみいただけたのなら、幸いです。
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