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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 その時の2人の後姿には「ぼーぜん」という言葉がぴったりだった。
 「うっそ・・・マジで?」
 「あるんだねぇ、こーゆー事」
 「つーかさ、要。アレ、なんて読むの?」
 「うーん。はや・・・何とか」
 「「・・・」」
 2人は思わず顔を見合わせた。

 4月・・・入学式。
 小学校3年の時からずーっとクラスメイトで、それも出席番号が必ず続きだという2人の間に異変が起きた。
 正直「ありえない」と思っていたことだった。
 「はやし」と「はやみ」の間に割ってはいる名前など、想像していなかった。
 それが崩れたのだ。

 林 優一
 疾風 麟
 速見 要

 「要も読めないワケ?・・・つーか、誰?」
 再び視線を向けれられも、答えの分らない要は、首を傾げるしかできなかった。

 教室に入ると、出席番号順に席に付く指示があり、おのおのが座るべき席を目で確認すると、お互いの席の間には、すでに「疾風 麟」なる謎の人物が座っていた。
 お互いに顔を見合わせ、暗黙の了解として席に着くべくして歩を進める。
 2人の間を引き裂いた(?)張本人の横を通る際、優一は何気に視線を滑らせ・・・そして、思わず足を止めた。
 すると、その視線に気づいたのか、顔を上げた張本人と視線が合った。
 「「・・・」」
 瞬間、優一の頭の中に湧いた言葉は「ガイジン」だった。
 瞳の色が、自分と違ったのだ。
 けれど、優一の中の「ガイジン」とは金髪碧眼で肩をすくめて「Hahaha」と笑うもので、目の前にいる人物とは違った。
 そして・・・その言葉は、悪気もなく優一から零れ落ちた。
 「なんで茶髪なの?不良?」
 「え?」
 相手が目を丸くして固まった瞬間、優一の口は後ろから押さえられた。
 もちろん、抑えたのは要だった。
 「ごめん。悪気はないから」
 慌てて謝りつつも、相手を見て少なからず要も動揺した。
 日本人の様で、日本人ではない相手を見て。
 学ランが黒いせいで、その茶色い髪の毛は、さらに茶色く見えた。
 一瞬惑った様子だったが、そのうち、くすくすと笑い出した。
 「別にいいよ。慣れてるから」
 それを聞いて、日本人だろうと2人の思考回路は理解した。
 そして、要の手が緩んだところで、優一は
 「ごめん」
 と、ぽつりと謝った。
 すると、にこりと笑った。
 思わず赤面してしまうほどの、笑みだった。
 「あの・・・さ」
 思わずドキマギしながら、優一は口を開いた。
 「?」
 「名前、なんて読むの?」
 「はやて りん」
 「ふーん」
 「珍しいね」
 すかさず、要がフォローを入れる。
 「うん」
 そしてまた、天使の笑みを浮かべる。
 なにをどうしていいのか分らず、優一と要は顔を見合わせると、どちらともなく席に着いた。

 教室で席についても、優一と要の間。
 入学式でも、とうぜん間。
 否が応でも、優一と要の視界の中に入っていた。
 「疾風ってさぁ、ガイジンなのかな?」
 「でも、普通にしゃべってるよね」
 「うん」
 「「・・・」」
 入学式の帰り道、迷える子羊たちは無言のまま、帰宅した。

 迷える子羊たちの苦労は、それからも続いた。
 新学期が始まってすぐは、席替えもなく、なにかと出席番順となる。
 いつでも、必ず視界の中に入っていた。
 麟の姿は、常にどこか浮いていた。
 同じ小学校出身者がいるはずだが、特に誰かと親しいという素振りもなかった。
 2人は、出身小学も違う上に、どう話しかけてもいいかも分らない。
 ただ、女子からは黄色い視線を受けていたことだけは分った。
 そして5月の連休明け、HRで遠足の班割を決める時のことだった。
 男女3人ずつ、合計6人の班を作ることになり・・・好きにしていいという担任の言葉の元、クラスの中は騒がしくなった。
 優一と要は、もちろん一緒の班になるつもりだった。
 そして、あと1人の男子。
 立ち上がって雑談していたが、席のわりと近くにいたため、必然的にその後姿が目に入った・・・さらさらヘアーの茶髪が。
 「「・・・」」
 もちろん、取り残されているのは1人だけじゃなかった。
 が。
 何となしに顔見合わせた後、優一はすたすたと近づいた。
 そして・・・。
 「疾風」
 「?」
 「一緒の班になんない?」
 「え」
 麟は、きょとんとした表情を作った。
 「いいの?」
 「イヤならいいんだぜ」
 戸惑う麟。
 「じゃあ、決定」
 そういい残して、要は担任の下にその事を伝えに言った。

 その日の下校時間。
 優一と要の2人が下駄箱に行くと、麟が靴を履き替えているところだった。
 もちろん、3人の下駄箱は隣同士だ。
 当然の如く近づくと、麟はにこりと笑った。
 「疾風。家、どこ?」
 優一が靴を履き替えながら問う。
 「えっと・・・団地」
 「じゃ、途中まで帰ろうぜ」
 「え?」
 「途中まで一緒だし」
 要がすかさずフォローする。
 「でも・・・」
 戸惑う麟など気にせずに、優一はその腕を麟の肩にかけた。
 「帰ろうぜ」
 「そうそう」
 反対側から、要も腕をかける。
 「うん!」
 麟は、今までにない笑顔を作った。

 「そう言えばさー。疾風って、なんで茶髪なの?」
 「優一!」
 「じーちゃんが外人なんだ」
 「えっと・・・ハーフ?」
 「ううん。クウォーター・・・1/4」
 「じゃあ、英語得意?」
 「うんまあ、しゃべれるよ」
 「じゃあ!英語教えて!」
 「いいよ」
 「あ!俺も」
 「うん、いいよ」
 「あとさー」
 そこまで言ってから、優一は言葉を濁した。
 「?」
 「疾風って言い難いから、麟って呼んでいいよな」
 その横顔が赤かったのは、夕日を浴びているからではなかった。
 「うん!」

 そして・・・。

 「あーあーあー。またかよ?」
 「ここまでくると、笑えないな」
 仏頂面の麟の隣で、流石の要も苦笑いしていた。
 「6年連続は、正直、笑えない」
 その隣で、優一までもがうんざしした表情を作った。
 「はいじゃー、今年もよろしく」
 おざなりな態度と口調で、麟はぺこりと頭を下げた。
 「「こちらこそ」」
 中学3年間とあわせて今年で6年目・・・高校生最後の1年間も、3人はまた、一緒のクラスになった。
 3人とも、まさかそうなるとは思ってもいなかった。
 けれど、誰一人として、イヤだとは思っていなかった。





あとがき

 いやぁ・・・グレる前の麟って、鼻血ものにかわいいね(*≧m≦*)ププッ

 題名は、ガガガSPの「はじめて君としゃべった」より。
 久しぶりに聞いたら、なんかこの歌をイメージしたものを書きたくなりました。
 仲のいい3人の、初めて話にいいかなぁと、直感。

 優一は、明るい元気キャラ。
 要は、お兄ちゃんキャラ。
 麟は中1までは、天使の微笑みキャラで(笑)不器用だからほっとけないキャラで、毛並みが違うために浮いている+間にいた麟を気になって・・・で、ついつい優一が手を出した、と。
 ありそうだと思うんですけどねぇぇぇ。

 お楽しみいただければ、幸いです。
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secret (管理人だけにコメントする。)
かわゆいですっ
こんにちは。
13歳のかわいい3人が容易に想像できました。
かわいい~~~。
麟くんがうちの左近と少しかぶっちゃいました。
紅梅 2009/09/19(Sat)11:22:04 編集
Re:かわゆいですっ
紅梅様
ほんとーに、いつもいつもいつもコメントありがとうございますv

>かわいい~~~。
えへへ・・・よかったですぅ、かわいい思ってもらえて

>麟くんがうちの左近と少しかぶっちゃいました。
をを!そうですか?
まあ、どちらも「疾風」ですからね☆
【2009/09/20 21:42】
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