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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 そして、平日を挟んだ連休の後半初日、おじいさまに呼ばれて実家に帰った。

 そして、平日を挟んだ連休の後半初日、おじいさまに呼ばれて実家に帰った。
 用件は・・・喬杞との結婚の話、だった。
 葛城家側が乗り気で、喬杞の希望としては、すぐにでも籍を入れてもいいと。
 喬杞の誕生日は3月・・・すでに、18。
 年齢的には結婚はできるが、私がまだ高校生であることや、お互いに大学へ行く事を考えると、籍だけ入れて、卒業までは東京と京都と離れて暮らすことでどうか?と。
 そう申し出があって、神崎家側としては文句はないと返答をする・・・そういう話だった。
 神崎家側から文句が出るはずは、ない。
 経済状況が芳しくない以上、これから先の事を考えれば、グループ会社全体の事も考えざるを得なくなる。
 そうなれば、グループ会社の西日本を拠点に置く会社を統括している葛城家と、東日本を拠点に置く会社を統括している神崎家が、今以上に親密になる事を望むのは当たり前のこと。
 古典的な方法であれ、喬杞との結婚に賛成どころか、諸手を挙げている事は十分すぎるほどに分っていた。
 喬杞も私も、自由に結婚相手を選ぶことはできない・・・狭い選択肢の中で、お互いが知りうる限り、最高の妥協相手を選んだ結果の、政略結婚。

 何かに胸を締め付けられながら、重い足取りで帰宅して、リビングとのドアを後ろ手で閉めたまま立ち尽くしていると、疾風が声をかけながら近づいてくるのが分かった。
 「・・・ただいま」
 それだけは、搾り出した。
 「帰宅時間知らなかったから、さっき風呂のスイッチ入れたばかりでさ」
 普通に・・・当然とはいえ、いつもと同じ態度の疾風。
 ねぇ。
 今、一緒に住んでいる相手は、自分の幼馴染と結婚するんだよ?
 それを知ったら、同じ態度でいられるの?
 泣くべきじゃない。
 でも、無意識に溢れてくる涙を、止められない。
 「・・・ごめん」
 「え?」
 「ちょっとだけ・・・」
 それだけ言ってから、右手を伸ばして疾風の左袖口をつかみ、左肩に顔をうずめた。
 見られたくない、泣いているのを。
 知られたくない、その理由を。
 「かん、ざき?」
 小さな声で名前が呼ばれてから、髪がなでられるのが分かる。
 「気が済むまで泣けよ」
 その声は、今の自分には、いつもより優しく聞こえたような気がした。
 ・・・やだ、そんなコト言わないでよ。
 薫くんの、せいだ。
 あんな事を聞いてから、やけに疾風の事が気にかかる。
 休みの間の平日に学校行った時、視界の端に、疾風を捉えていた。
 そんなこと、今まではなかったのに。
 疾風は何も変わらない。
 学校にいる時も、ここにいる時も。
 一緒に住む前も、住んだ後も。
 水沢勇樹が、女だと分かっても。
 呼び方が、水沢から神崎に変わっても。
 「せっかく麟が悠宇ちゃんに気があるなら、うまくいって欲しいんだよね」
 薫くんの言葉を聞いてからの数日間、自分ひとり、心を乱されている。
 自分ひとりが・・・。
 そんな事を思いながら涙を止められずにいると、突然、アラーム音が響いた。
 「!」
 「あ。風呂、沸いたんだ」
 疾風の言葉に、一瞬強張った体の力を抜く。
 「風呂、入る?」
 そんな気分じゃないから、うつむいたまま、軽く頭を左右に振った。
 「じゃあ、なんか温かいもの入れるよ」
 お願い・・・そう思って、今度は縦に頭を振った。
 「じゃ、待ってな」
 軽く髪をひとなでしてからキッチンへ向かう疾風を目で追った後、ダイニングにいたい気分じゃなくて、ソファの方へと足を向けた。
 そしてクッションを一つ抱え込んで、顔をうずめた。

 どのぐらいそうしていたんだろう?
 「神崎」
 と、名前を呼ばれて、ゆっくりと顔を上げた。
 すぐ左に、マグカップを両手に持った疾風が立っていて、その片方を差し出してきた。
 「ありがと」
 両手で受け取る。
 そのまま疾風は左隣に座ると、一口。
 「勝手に砂糖とミルク入れたけど」
 「うん、ありがと」
 ゆっくりと、マグカップに口をつけた。
 嫌だな・・・今、一番とって欲しくない態度のように、ほんのり甘くて温かい。
 甘えたい自分。
 優しくされたい自分。
 特別なんだと思い込みたい自分。
 そんな気持ちを疾風に向けちゃいけない。
 でも・・・向けたい自分に気がついてしまった。
 だめなのに・・・そう思ったら、また、目頭が熱くなった。
 思わず手を止めていると、ゆっくりと疾風にマグカップを取られた。
 薫くんの言葉は、魔法の言葉だった。
 遅いのに・・・今更、遅いのに。
 そして間もなく、頬を涙が伝っていった。
 また、髪がなぜられたのが分かる。
 ごめん・・・今日だけ、今だけ、甘えさえて。
 そう思いながら、疾風の左肩に顔をうずめた。

 長いような短い時間の後、時計のチャイムが11時を告げた。
 それから1・2分あってから、自分からすこし、体を離した。
 「ありがと」
 つむいたまま、小さな声で言った。
 疾風は、返事をする代わりとでも言う様に、左手でそっと髪をなぜた。
 「本当にありがとう」
 さらに体を離したつもりが、背中に回された右腕のせいで、ある程度以上は離れなかった。
 こんなに泣きはらした顔を見られたくなくてうつむいていたけど、本来ならちゃんと視線を合わせるべき。
 それを咎められている様な気になって戸惑っていると、抱き寄せられた。
 「疾風?」
 「・・・あんまり」
 「え?」
 「あんまり泣くなよ。見てる俺が辛くなる」
 お願い、そんなこと言わないでってば。
 優しくしないで。
 そのまま少しの間、疾風の腕に身を任せていたけれど、そっと体を離した。
 分かってる。
 だめだって、甘えちゃ。
 「ごめんなさい、迷惑かけてばかりで」
 「いいって」
 背中に回されていた左手が、そっと右頬に触れる・・・まるで、顔を上げて欲しいとでも言われたような気になって、ゆっくりと顔を上げる。
 そっと視線を送ると、疾風は、穏やかな表情を浮かべていた。
 2・3度頬をなぜた疾風の手が止まり、親指が、軽く唇に触れた。
 「好きだ、神崎・・・」
 「はや・・・て?」

 そう言って顔を近づけてくる疾風の甘い誘惑に・・・勝てなかった。





途中のあとがき

 充槻の事があって、薫に焚き付けられ、喬杞との結婚が決まって、それでやっと気づいた悠宇。
 ま「おせーよ」なんですけどね。

 人の価値基準はいろいろですが、私にとって「その人の前で泣けるか」って結構重要。
 感情を抑えることに慣れている悠宇が、泣ける相手。
 それが、麟。
 この章と次の章が、一番悠宇の気持ちが書かれる訳ですが・・・ああ、今さらながら、不安だよ。
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