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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 疾風は完全に、ここにいるのは「水沢 勇樹」だと思い込んでいる様子だった。

 疾風は完全に、ここにいるのは「水沢 勇樹」だと思い込んでいる様子だった。

 それから数日間は、学校が終わると叔母の家から荷物を持ってマンションに来るようになり、寝るのは叔母の家に帰る、というのを繰り返していた。
 結果的に疾風は、下階フロアの部屋を使うようにした・・・らしい。
 そして学校のない土曜、お昼過ぎにマンションに来てから、なにやらがさごそと、その部屋に篭っていた。
 そして気づくと、日が暮れていた。
 「はーやーてー」
 ドアをノックしながら言うと、
 「どーぞー」
 と、返事が返ってきた。
 ドアを開けて中を覗くと、部屋の真ん中に座って片づけをしているらしく、お店を開いていた。
 「なんスか?」
 振り返ったその表情が、学校で見るのとは違う表情で、呆気に取られた。
 「えーと・・・夕飯、いる?」
 「はい」
 あっさりすぎる程素直に、返事をする。
 「俺、ここで寝泊りしていいんですよね?」
 「まあ」
 好きに使う様にと言ったのは、自分だ。
 「タメ口でいいって言ったはずだけど?」
 「あ・・・すんません。なんとなく」
 やはり素直に頭を下げて。
 「わかった。できたら呼ぶから」
 そう返してから、首を捻りながらキッチンへ取って返した。

 ここ数日用意した当たり障りのない夕飯のメニューでは、特に好き嫌いはないらしく、自分が食べたいものを並べても、何一つ文句はなかった。
 が。
 白米、なめこのお味噌汁、ほうれん草のおひたし、焼き魚はほっけ。
 かぼちゃの煮物に、頂き物の胡麻豆腐。
 洋食オンパレードに嫌気がさして和食をずらりと並べたテーブルを見て、疾風は絶句していた。
 「なに?」
 「いや・・・」
 何か言いたそうな表情で、席に着く。
 「いただきます」
 小さくつぶやいてから箸を取る、疾風。
 「まずかったら食うな」
 「いや。そーいうワケじゃなくて」
 「じゃ、なに?」
 「・・・軽く感動」
 「はい?」
 その言葉に、思わず箸が止まる。
 「水沢、いい旦那になれるよ」
 照れるように言う、学校では見たことのない、柔らかい雰囲気。

 この1週間、学校での姿とここに来た時の姿を比べて少しづつ分かってきたこと・・・それは、学校での少し横柄な態度や言動は、いわゆる「外向き」らしかった。
 何の理由かは分らないが、あまり他人と関わりを持ちたくないように思えた。
 わざと、横柄に接する。
 それ故に、林や速見に対する態度は、歴然。
 さらに「女子向き」が加わると、素っ気なさがプラスされる。
 鎌田さんには、中学の時に一緒だったこともあって、林たちへの態度と近い。
 水沢勇樹に対する対応は、おそらく目上の人向け。

 「あっそ」
 いや、嫁でしょ?と、心の中で突っ込んだ。
 「褒めてんスけど」
 「そんなことより。疾風、箸の持ち方おかしいって」
 「すんません」
 素直に頭を下げる。
 それよりも目に付いたのは、その、所作。
 お箸の持ち方はクセがあるにしても、しっかり箸置きも使うし、お茶碗の上げ下げなどはお作法通り。
 思い起こせば、パスタを出したときにスプーンを使うことこそなかったが、嵐山の連中の様な慌しさや乱雑さは一切なかった。
 「疾風」
 「はい?」
 お味噌汁を飲む手が、止まる。
 「疾風って、ハーフだっけ?」
 「いや。クォーター」
 「そのわりには、躾、厳しかった?」
 「はい?」
 軽く固まる。
 「いや・・・なんでもない」
 自覚がない、ということは、作法の身に付いた人の側にいたということ。
 他人の事を詮索する気はなかったが、不思議な雰囲気を感じざるを得なかった。
 「お風呂は?何時くらいに入る?」
 「あんま、考えてないっス」
 「・・・疾風、気ぃ使ってる?」
 さり気なく聞くと、
 「一応、多少は」
 と、ぽつりと返ってきた。
 学校に居る時は、まず一番しゃべるのは、林。
 それにフォローを入れるのが速水で、何か聞かれたら口を開くのが、疾風。
 だからこそ、性格は把握し辛かった。
 んー。
 御園先輩も気を使う人だったけど、年上だったせいか、気が引けたのはこっちのほうで。
 最近知り合った中では桜井も気を使うけど、大人しくついてくる感じで。
 秋に、思いがけず醜態を見せた時には、突っぱねるようでいて、それでも助けてくれはした。
 こういう、まさか意外におとなしい側面があると思ってなかった分、扱いがよくわかんない、かも。
 思わずため息をつくと、疾風が声をかけてきた。
 「水沢さん」
 「んー?」
 「あのさぁ・・・俺、迷惑?」
 「いや。それより、取り説ないの?」
 「はあ?」
 先刻までの真剣な表情が、崩れる。
 「なんかまだよく、疾風の扱い方が分らない」
 「はい?」
 ケンカだのなんだのあっても、疾風は呼び出し対象でなかった。
 学校にいる時と違う分、向こうが水沢だと思って対応している分、どーしていいのかよくわからない。
 そんな事を思ってると、
 「お互い様、じゃん」
 と言って、疾風がくすりと笑った。
 「・・・かな?」
 そう言われ、思わず、肩の力が抜けた。
 桜井が「いいヤツ」と連呼していたのが、少ぉし分った気がした。






途中のあとがき

 書いていくうちに、麟が不憫になってきた今日この頃。

 これは書き下ろしなんですが、いかに今まで悠宇が麟をなーんとも思ってなかったか、書いてから愕然とした。
 まあ、仕方のないこと・・・悠宇は、相手が誰であれ、恋愛する気なんかさらさらないので。
 断りきれない上に、押しの強い相手ばっかりで押されてるだけ。
 その辺りは「crosswise」の瞳編に書かれていますが(汗

 長い間、この子(悠宇)を育ててますが、こんなに感情が分らないなんて思ってなかったです。
 なんかなんかなんか、すごい不安(〒_〒)ウウウ
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