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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 充槻は改めて、悠宇には盾つくまいと思うと同時、敵に回さなくて済んだことに安堵した。
 麟は、水沢 勇樹が水沢 勇樹たる理由を悟った。


 男と女では、どうしたって骨格・腕力・筋力のどれをとっても女が劣るにもかかわらず、男の中にいて平然としている理由。
 「何か、習っていたらしい」とは聞いていたが、それはいわゆる、武術や柔術の類。
 相手の力や勢いを利用するし、人間の急所狙う、知識と経験と能力。
 それらをフルに発揮して、急所を確実に一撃で狙う。
 ただ単なるケンカばかりしてきた連中相手なら、確かに「読めない」ことはあるものの、急所への配慮などは皆無。
 そして、一撃であれば体力差も埋めることができる。
 だからこそ、女であることのデメリットがあっても、いられた位置。
 また「嵐山の・・・」と冠されるということは、嵐山に入った時点では、すでに身に付いているはずで、一朝一夕で身につけたものではない事は、明白。
 確実に、物心がついた頃には、そこそこ身に付けていたということになる。
 師匠・環境・才能・・・そのうちのどれかか全部かは分からないが、恵まれていたことも予想がついた。
 「なんてやつだよ」と、麟は心の中で思った。
 悠宇は大きなため息をつくと、麟と充槻の方へと近寄り、それをうけて充槻は立ち上がった。
 「ごくろーさん」
 「充槻」
 「あ?」
 充槻が軽く表情を歪めた次の瞬間、乾いた音が響いた。
 「ぃて」
 わずかに赤くなった右頬に、充槻は手を当てた。
 「次、同じことしたら、承知しないから」
 「・・・」
 それだけ言うと、悠宇はあからさまに不機嫌な表情を残して踵を返し、その場を立ち去った。
 「やっぱ、バレてたか」
 充槻はため息をつくと、煙草をくわえて麟の隣にどっかりと座った。
 「成田?」
 「俺があいつらをけしかけたの、バレてた」
 「は?」
 「ちょっと高い授業料だったな」
 そう言うと、苦笑いした。
 「それって・・・」
 「そーゆーコト」
 紫煙と一緒に、そう言った。
 「しょーじき、俺は水沢がやってるの、マトモに見たことねーんだよ」
 「?」
 一瞬戸惑ってから、麟はすぐに気付いた。
 つまり、一緒にケンカしていて、見る暇がないのだと。
 「俺らより早く片付けて、片づける人数多いし、病院送りにする数も多い・・・ってのが毎度でさ。けど、理由がさっぱり」
 ジェスチャーを付けていたなら、確実に肩をすぼめていただろう。
 「その理由、やっとわかった」
 大きなため息をつく。
 「俺は、やりあっても勝てねーな。敵に回らなくてラッキーだよ」
 「・・・」
 「松原の『なんかやってた』はアテになんねー」
 「松原って、水沢の先輩?だよな?」
 「まあ」
 「そいつが『なんかやってた』って、まぢで適当だな」
 「つーか、アテになんねーって文句言って、一発くらい殴るか」
 けらけらと笑う。
 「ま。あいつの事だから、詳しく聞いてねーか、水沢が言わないだけだろうけど」
 どっちもアリかもしれないと、麟は思った。
 「で?お前の感想は?」
 「あー。まあ、同じだな」
 「?」
 「やりあいたくない」
 「だろうな」
 にやりと笑う。
 「俺、ぜってー水沢には逆らわねぇ」
 口調は冗談交じりだったが、その目は少し険しかった。

 麟が帰宅すると、リビングの明かりはついていたが、悠宇の姿はなかった。
 「?」
 けれど耳をすませていると、キッチンの換気扇が回ってることに気がついた。
 「?!」
 見てみると、キッチンの床に悠宇が膝を抱え、顔を埋めていた。
 そしてその手には、灰の部分が大多数を占めるタバコが握られていた。
 麟は近寄り、その手からタバコを取り上げながら声をかけた。
 「水沢」
 呼ばれて、悠宇はほんの少しだけ顔を上げた。
 「体調、悪い?」
 「・・・」
 返事の変わりに大きなため息をつくと、さらに顔を上げた・・・が、すぐに左手を額に当てた。
 「水沢?」
 表情は、まったく窺いしれない。
 「・・・のかも」
 「え?」
 本当に、それは蚊の鳴くような声だった。
 「殴り方なんて、知らなくてよかったのかも」
 「水沢・・・」
 直感的に、涙を流していなくとも泣いているのだろうと麟は感じ、そっと髪を撫ぜた。
 「親父さんに、習ったんだって?」
 返事は、ない。
 「それは、後悔してないんだろ?」
 するとわずかに、頷いた。
 「じゃ、それでいいじゃん」
 麟は床に座りなおし、そっと悠宇の肩に腕を回した。
 「正義が言ってた。成田も水沢も、いいやつだって」
 そして先刻、言っていた言葉を思い出した。
 『降りかかる火の粉を払ってるだけ』
 充槻の事を代弁していた様で、実は自身の気持ちだったのだろうと。
 それと同時に、正義が言っていた言葉も思い出した。
 「やりたくてケンカしてきたわけじゃない、って・・・正義も俺も成田も水沢も、だろ?」
 「!」
 額に当てた悠宇の手が、わずかに緩んだ。
 麟は、何に対して悠宇が心を痛めているのか、分かった様な気がした。
 目の前にいる水沢 勇樹は男扱いされているが、本来は女だ。
 女の方が、総じて争いごとや暴力を嫌う。
 そして、殴られる痛みも知っているのだろう。
 殴られる痛みを知っていて、好き好んで人を殴りたいわけはない。
 その、一撃必殺的な器量は別として、基本的には自己防衛や正当防衛のための技術でしかないのだろう・・・自分と同じ様に。
 少し考えてから、麟は悠宇の肩を引き寄せた。
 「俺ら、ちゃんと分かってるから」
 その言葉に、悠宇の肩から少しだけ力が抜けたのが伝わってきた。
 「俺らの事、信用しろよ」

 「・・・ぁりがとう」





あとがき

 よし!終わった。

 これは、まだ悠宇と麟が同居し始めて日が浅く、麟が悠宇イコール勇樹だと分かってからも日が浅い頃の話ですね。
 2人の心が少しづつ寄り添っていく途中経過。

 なんつーか、悠宇も麟も充槻も正義も、どっちかてーと似た者同士。
 そんな気ないのに、巻き込まれちゃったクチ。
 自分から火の粉巻いているキャラもうちには数名いますが、この4人は本来は乗り気じゃない者同士。
 そんな中、特に悠宇と麟の心は寄り添っていくのでありました。

 お楽しみいただけたのであれば、幸いです。
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