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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 悠宇の実家へ付くと、玄関に叔父の信宗が待っていた。


 「夜遅くに、ごめんなさい」
 信宗の顔を見ると、悠宇は視線を落としながらつぶやいた。
 「そんなことより、早くあがりなさい」
 「・・・はい」
 促され、3人はリビングへと入った。
 先導していた信宗は、何も言わずに2人掛けのソファに座った。
 「右肩?」
 「うん」
 そのやり取りを見て、充槻は「以前にも同じことがあったな」と感じた。
 少し間を空けてソファに座ると、悠宇はゆっくりと洋服を脱ぎ始め、最終的にはキャミソール姿になった。
 よくもまあ、体系を隠したなぁと、充槻は思った。
 夏に水着姿を見て分かっていたとはいえ、こんな状況でなければ、間違いを犯したくなる状況だ。
 「っ!!」
 信宗が腕を触ると、悠宇は即座に顔を歪めた。
 「水沢」
 2人の様子を傍で立ってみていた充槻は、膝を折り、悠宇の顔を覗き込んだ。
 「大丈夫、慣れてるから」
 その笑顔が、逆に痛々しかった。
 信宗は腕を放すと、軽くため息をついた。
 「悠宇・・・」
 「分かってます」
 「?」
 2人は暗黙の了解で悠宇の肩がどうなっているのか、十分に分かっている様だった。
 「えーと。成田くん、だっけ?」
 「あ、はい」
 急に声をかけられ、充槻は軽く驚いた。
 「ちょっと、手伝ってくれるかな?」
 「は?」
 「悠宇の隣に座って」
 「はい?」
 立ち上がりながら、悠宇の隣を指差す。
 悠宇はそれにあわせて、充槻のために座る隙間を作った。
 が、充槻はワケが分からない。
 「・・・ごめん、充槻。頼める?」
 「え?あ?・・・ああ」
 悠宇の辛そうな笑顔に、つられて、何も言えずに従った。
 「悠宇の事、押さえて」
 言いながら信宗は勝手に充槻の手を取り、左手を腰に、右手は背中を通ってアンダーバストのあたりに添えさせ、悠宇を抱きかかえるようにさせた。
 「あの・・・」
 信宗にこの状況の理由を聞こうとして・・・でもそれは、悠宇の声で遮られた。
 「ごめんね、充槻」
 そう言う悠宇の顔は、至近距離にある。
 本当にこんな状況でなければ、かなりおいしい役目だ。
 そんな充槻の気持ちを知ってか知らないでか、信宗は
 「悠宇、いいね」
 と言って、右手を悠宇の肩に添え、左手で悠宇の右腕をつかんだ。
 「はい」
 悠宇の声は落ち着いていたが、空いた左手で、充槻の腕をきゅっと握った。
 「水沢?」
 ただならぬ気配を直感して、充槻が悠宇の方に顔を向けたその瞬間、だった。
 「「!!」」
 生理的に嫌な音がして、慌てて充槻が信宗を仰ぎ見ると同時に、くたりと、力が抜けた悠宇がもたれかかってきた。
 「水沢?!」
 返事はなかった。
 「水沢!」
 「大丈夫、気を失っているだけだから」
 「!」
 その言葉に、充槻は悠宇の体を抱きしめて叫んだ。
 「気を失ってるって『だけ』かよ!」
 「・・・」
 「大丈夫、じゃねーだろ!」
 食って掛かる充槻を見て、信宗はため息をついた。
 「悠宇は右肩を脱臼していたんだ。そのままのほうが、よほど激痛を伴う」
 「え?」
 ゆっくりと、充槻の頭が告げられた事が染み込んでいった。
 「脱臼?」
 「それをはめたから、大丈夫」
 「・・・」
 信宗の言葉が理解できた充槻は、改めて悠宇の顔を見た。
 気を失ったと言えば聞こえが悪いが、痛みから解放されたためか、悠宇はまるで普通に寝ているかの様に穏やかな表情をしていた。
 充槻は安堵のため息をついた。
 「水沢・・・」
 そして自然に、悠宇の体を抱きしめた。
 「とりあえず悠宇は寝かせてあげて、我々は一息つこう」
 「・・・はい」
 信宗はこうなる事を分かっていたらしく、すでに準備していた毛布を広げた。
 充槻は指示に従い悠宇をソファに寝かせ、信宗が毛布をかけた。
 そして、2人はダイニングへと場所を移した。

 信宗がコーヒーを入れる間大人しく待っていた充槻の視線は、常に悠宇の方に向いていた。
 コーヒーを入れて目の前に置くと、充槻は
 「どうも」
 と言って、軽く頭を下げた。
 「悠宇は大丈夫だよ」
 充槻の様子から悠宇が担ぎこまれた理由がなんとなく分かり、信宗はそう言って軽く笑みを浮かべた。
 「前にやった交通事故が原因で、右肩を痛めていてね。以来、脱臼し易いんだよ。何度もやってるから」
 「・・・でも、俺のせいなんで」
 マグカップを両手で握り締めながら、充槻はぼそりと言った。
 「たとえそうでも、悠宇は何とも思ってないよ、きっと」
 「なさけねぇ」
 そう言って視線を落とす充槻を見て、信宗は軽くため息をついた。
 「そういう顔している方が、悠宇は嫌がると思うけど」
 確かにそれはそうかもしれないと、充槻は思った。
 とはいえ、自分のせいであることには変わりはなかった。
 「普通の女の子よりケガが多いからね、悠宇は」
 「はい」
 「まあ、あの親にしてこの子あり、だけど」
 そう言うと、くすりと笑った。
 「水沢の、親?」
 悠宇は、自分の家族・親族の話は一切口にしたことはなかった。
 「父親が道場を開いていてね。自然と習い始めたらしいから。男の子に生まれた方が、よかったかもしれない」
 その言葉に、充槻は思わず肩の力が抜けた。
 「水沢が男だったら、俺、傍になんかいねぇ」
 「そうかな?」
 信宗は、意味ありげな表情を作る。
 「確かに『守ってあげたい』とは思わないかな」
 信宗のその言葉に、思わず2人は軽く吹き出した。
 「成田くん」
 「はい?」
 「勇樹の傍にいてくれて、ありがとう」
 「礼を言われることなんかしてねーし」
 「分かってる」
 「分かってて、言うんすか?」
 「まあね」
 信宗がにこりと笑った。
 そんな話をしていると、不意に視界の隅で何かが動いた。
 「!」
 慌てて、充槻が悠宇の方を見ると、ゆっくりと体を起こすところだった。





途中のあとがき

 えーっと、意外と長くなったので、なぜか3部作???r(・x・。)アレ???

 いつも、掲載するにあたって、自分のルールがあります。
 「1回の掲載分量は、約100行」
 個人的に、この位が読みやすいので・・・もちろん、キリのいい悪いで多少上下しますが。
 どうなんでしょうね、この長さ。
 特にこの話については、2部くらいで終わると思ったのにね。
 なので、次に続きます。
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