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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 結局、居心地がよかったのか、食事に惹かれたのか、薫はもう1泊することになった。

 結局、居心地がよかったのか、食事に惹かれたのか、薫はもう1泊することになった。
そして2泊目の夜、麟がお風呂に行き、悠宇と薫の二人だけになった時のことだった。
キッチンでお茶を入れている悠宇のそばに、薫が歩み寄った。
「喬杞は知ってんの、このこと?」
いつか出てくるだろうと思っていた名前、だった。
「まさか」
「だろうね」
そう言うと、薫はため息をついた。
麟と薫の共通の幼馴染である葛城 喬杞は、家同士の勝手でそうされたとは言え、悠宇の許婚だった。
薫は一度だけ、偶然に葛城邸にいた悠宇と会ったことがあった。
それとは別に、喬杞にゆっくりと話を聞いて、その時にいろいろと写真も見せてもらったこともあり、悠宇の事を知っていた。
悠宇は悠宇で「りん」という名前の幼馴染がいることは聞いていたが、まさかそれが疾風 麟だとは思ってもいなかった。
「あと、それだけじゃないんだよね」
「え?」
悠宇の手が止まる。
「勢見月家って、知ってる?」
「名前は聞いたことがあるけど」
「西陣では有名な呉服問屋で、葛城の一族らしいけんだけど。悠宇ちゃん、葛城家から着物もらってるでしょ?」
「うん」
「全部、勢見月が手配してるはず。で・・・まだもめてるけど、このままだと確実に、麟はそこの家に引き取られる事になる」
「!?」
春休みの帰省の事を、悠宇は思い出した。
「俺としてはさ、麟を応援したいんだよね」
「え?」
母親が亡くなって以降、昔から知っていたり信用している人以外に対して、人を寄せ付けない態度をする様になっていた麟の事を考えると、悠宇への態度は異例。
たったの2日でも十分過ぎるほどに、麟が悠宇に思いを寄せていることは明らかに分かった。
また、悠宇の態度も、喬杞といる時よりも自然で柔らかいことも感じ取った。
麟と悠宇がお互いにまったく事情を知らなかったにしても、まさか偶然にも一緒に住み、お互いの気持ちが向かい合っていることを考えると薫は心が痛かった。
「麟ってさ、あんまり女に興味もたないからさ。せっかく麟が悠宇ちゃんに気があるなら、うまくいって欲しいんだよね」
「疾風、が?まさか・・・」
悠宇が息を飲む。
「麟見てればわかるよ」
「薫くん」
「何年、麟を見てると思ってんの?」
にっこりと笑った。
「ただ、終わりが見えている恋愛を応援するっていうのも」
「・・・」
その言葉に、悠宇は何も言えなくなる。
「俺は、麟にも喬杞には黙っておくから」
「そう・・・」
悠宇は静かにうつむいた。

そんな会話が交わされたその後、麟と薫の2人がお風呂を終えた頃になって
「ちょっと急用」
と言って、笑顔を残して悠宇は出かけていった。
それが気になってなんとなく寝付けなかった麟は、夜中、わずかな物音で目を覚ました。
そっとリビングとのドアを開けると、リビングの明かりだけつけ、ソファのところに座っている悠宇が座っていた。
時間は夜中の3時を回っていたので、薫を起こさないようにゆっくりと部屋を抜け出ると、麟は静かにソファの方へ向かった。
「おかえり」
「え?」
おびえたかのように振り返る悠宇の膝の上には、救急箱があった。
「ケガ?」
「ごめん。起こすつもりなくて・・・ただちょっと、一応、消毒しておこうと思って」
なんでもないとその表情は語っていたが、麟にはほうっておけなかった。
「貸しな」
ソファをまたいで悠宇の向かい座ると、ほとんど無理やりに救急箱を奪った。
そして、マキロンをコットンに含ませると、ケガの箇所を出せとばかり左手を出した。
「・・・ごめん」
「いいって」
なにか、ひと悶着あったのだろう。
黒のフード付き半そでトレーナーに薄い生成りのだぶついたパンツ・・・「水沢」として外出したのが分かった。
血の気の多い連中と一緒にいれば、喧嘩に巻き込まれることは自然と多く、悠宇も戦力として呼ばれる事があるのは、簡単に想像が付いた。
季節的に半そででむき出しになる腕には、常に小さな切り傷やあざが幾つかできていて、砂地に手を付いたのか右手の平と左肘が軽く擦り剥けていた。
ケガは一応水洗いしたらしく、汚れはほとんど付いていない状態だった。
「お前さ」
「え?」
「女にしてはケガしすぎだよ」
「・・・」
「事情は分かるけど」
一緒に住むようになってからも何度か傷の手当したこともあったし、事情を知る前の時でも、小傷が多いのは学校にいた時にも見知っていた。
消毒を終えてから、少し大きめの傷にはガーゼ、他には絆創膏を張り終えると、大人しく反省顔でいる悠宇の顔に視線を移した。
「?」
無意識に左頬に手を伸ばす。
「・・・っつ」
「一発殴られたろ」
よく見ると、唇の端も少し切れて血がにじんでいた。
改めてマキロンをコットンに含ませると、左頬に手を伸ばした。
「!・・・っつ」
消毒がしみた悠宇は、思わず顔をしかめた。
「顔なんか殴られんなよ、女なんだからさ」
「ガードはしたんだけど」
殴られたことに対してか、少し顔を赤くした。
「はい、終了」
ため息とともに救急箱を閉めた。
その横顔にいたたまれなくなって、悠宇はすぐさま救急箱を手に取った。
「本当にありがと。救急箱は、片付けるから」
そう言って左手に箱を持ち、体を反転させながら立ち上がろうとした時だった。
「!」
ふいに、麟の右手が悠宇の右腕をつかんだ。
「?」
振り返ると、麟が張り詰めたな様な真剣な面持ちをしていた。
・・・こういう事は、この数ヶ月に何回かあった。
「急に身を翻すと引き止められる」事が。
「疾風?」
悠宇は思わず息を呑んだ。
「神崎・・・」
小さな声で名前を呼ばれたと同時、強く引き寄られた。
その隣で、不意の事に手を離してしまった救急箱が、がたんと落ちる。
「疾風?!」
一瞬にして、悠宇は麟の腕にきれいに納まった。
「頼むから・・・」
「え?」
「頼むから、あんま無理すんなよ」
懇願するような声と共に抱きしめられ、悠宇は体を硬くした。

その様子を、3センチほど開けたドアから声だけ聞いていた薫は、ふうとため息をついた。
「がんばれよ、麟」





途中のあとがき

うっしゃ!先が見えてきたぞ☆(*^o^)乂(^-^*)☆ ヤッタネ!!

さて、悠宇の婚約者の葛城 喬杞(かつらぎ たかき)ですが・・・喬杞の出る話ってのが、つい最近まで存在してませんでしたヾ(--;)ぉぃぉぃ
またとある曲にインスパイアされて、すこしづつカタチが見え始めてきました。
自分で作っておきながら、どーもイマイチつかめきれない喬杞。
もうちょっと、自己主張しておくれ。

そして、この話も大詰めです。
お楽しみいただければ、幸いです。
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かわいい^^
悠宇ちゃんに婚約者がいたんですね。
かわいいです、ふたりとも。
婚約してから結婚するまでが一番ドキドキする期間ですね。思い出しました。
紅梅 2008/12/08(Mon)15:27:57 編集
Re:かわいい^^
紅梅さん、またのコメントありがとうございます。

>悠宇ちゃんに婚約者がいたんですね。
ええまぁ。設定に穴だらけの本編がちゃんとしてれば、こっそり出てくるはずだったんですが、日の目の見ないかわいそうな婚約者ですけどね(汗

>かわいいです、ふたりとも。
まあ、2人とも天然ボケのタイプですからね(笑

>婚約してから結婚するまでが一番ドキドキする期間ですね。思い出しました。
をを・・・そうなのですか((φ( ̄Д ̄ )ホォホォ
私は普通の段取りで結婚をしなかったので(大汗)参考にさせていただきますね。
【2008/12/09 09:25】
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