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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 2月上旬のある休日。

 2月上旬のある休日。
ちょっとした買い物と思ってコンビニへ行く前に、勇樹がいるのを知っていた麟は、一応声をかけることにした。
「水沢」
ドアをノックする・・・が、返事はない。
「あれ?」
首を捻る。
先ほどまでは部屋で誰かと携帯で話していたらしく、気配があったはず。
「水沢?」
改めてノックするが返事がないので、そっとドアを開けてみた。
その時初めて、勇樹の部屋を目にした。
もっと男っぽい部屋を想像していたが、思っていたより片付き「女の部屋?」と思わせるような雰囲気があった。
そしてその部屋の主の姿は、ベランダの手前にあるクローゼットの前の脚立に乗っていた。
クローゼット上段を、なにやらがさごぞと探している。
「水沢?」
「疾風?なに?」
そのままがさごそとしながら、返答する。
「コンビニ行くけど、何かいるかと思って」
そのまま何気なく、近寄る。
「コンビニ?」
脚立の上で背伸びまでして何かを探していた勇樹が、動きを止める。
「疾風!勝手に入ってくんなって言っ・・・」
そこまで言ってから、無理やりに体をねじった勇樹は、その勢いでバランスを崩した。
「水沢っ!」
ものの見事にひっくり返り、倒れる瞬間に手にしていたであろう箱の中身が、周囲に散らばった。
「・・・いて」
右肩から落ちた勇樹は、上体を起こすと痛そうに右肩を押さえ、少しうずくまった。
「大丈夫かよ」
慌てて駆け寄り、そばに膝を折った。
「大丈夫じゃない」
「え?」
「痛い・・・もともと、古傷があるから余計に痛い」
「古傷?」
「っつ・・・疾風が勝手に入ってくるからだ」
右肩を押さえたまま、睨み付ける。
「あ・・・悪ぃ」
その形相に気おされて、麟は素直に謝った。
「まあ、探していたものは見つかったけど」
そういうと、周りに散らばった箱の中身・・・写真を見渡した。
そしてその状態を見ると、大きなため息をついた。
「早目に整理しときゃよかった」
「ぷっ」
その様子に、思わず笑いがこみ上げる。
そしてお決まりのように、改めてものすごい勢いで睨み付けられた。
「水沢って意外と・・・」
女に対して言うなのなら、素直に「かわいい」だったが、男に対してはなんと言えばいいのか分からなかった麟は、笑いでそれを誤魔化しながらくすくすと笑った。
「手伝えよな、疾風」
「はいはい」
悔しそうな表情のまま写真を集める勇樹を、麟は手伝い始めた。
がさがさと集めていくと、表になっていた数枚が目に入る・・・夏に海に行った時の写真のようだった。
その写真の一部に目が行き、麟は思わず手を止めた。
数枚にわたっているその写真に写っている複数の男は、明らかにあの晩にいた連中だった。
松原と成田と、よりによって桜井!
他に写っているのは、見知った女子・・・それは、神崎 悠宇だった。
「疾風?」
手の止まった麟の方を振り返った勇樹は、その手に握られている写真に写っているものが分かると、慌てて手を伸ばした。
「疾風、返せ!」
「!」
とっさに、遠くへ手を伸ばす。
「水沢、やっぱり知り合いだったんだな」
「・・・」
「前に、テキトーなことかぬかして誤魔化したけど、やっぱり神崎と知り合いかよ」
ぎりっと、勇樹が歯をかみ締める音が聞こえた。
「ま、そうだよな。神崎の親父さんがここの鍵持ってるくらいだからな」
「・・・」
「他になに隠してる?」
右手で勇樹の胸倉をつかむと、ぐいっと引き寄せた。
「水沢!」
「・・・」
眉一つ動かさずにいた勇樹は、少したってからため息をつくと、ゆっくりと麟の手を解き、立ち上がった。
「鈍いな、疾風」
「は?!」
「鈍すぎ」
言いながら、パーカーの中から隠していた長い髪を出し、軽く束ねていたゴムを解き、2・3回頭を振った。
そして右手で髪をかきあげ、長い前髪をまるでブローをしたかの様に少し後ろに流すと、にっこりと笑った。
「もっと早く気づくと思ってたけど」
そこに立っていたのは、まぎれもなく神崎 悠宇だった。
「え?あ?・・・神崎?」
先ほどとは、雰囲気も態度も声のトーンさえもがらりと変わり、その様子に麟は呆然とした。

それから数分後、二人はダイニングにいた。
悠宇はくすくす笑いながらインスタントのココアをいれ、不満そうな顔をしている麟の前に座った。
「本当にぜんぜん気づかなかった?」
「・・・悪かったな」
ふてくされる麟に、さらに悠宇はくすくすと笑った。
「まあ、これであれこれ小細工して隠す必要なくなったのは、楽なんだけど」
「・・・」
さほど変わらぬ時間に、ほぼ毎日同じ学校の同じ教室にいたにも関わらず。
ましてや約1ヶ月近く一緒に暮らしていたというのに、まったくなにも気づかなかった自分に対して、麟は軽く怒りさえも覚えた。
「っていうか、水沢って嵐山に通ってたから男じゃなかったのかよ?」
「体育の時間に、見たことあるでしょ?」
体育といえば、夏場は水泳もある・・・女子更衣室で着替えていて、なおかつ見たはずであろう体育着姿と水着姿を暗に示し、さすがに男なわけないと言ってきた。
「それとも、今ここで脱ごうか?」
「いや、それはいい・・・」
口調は、本当に脱ぎ出しかねない勢いだった。
その返事を聞いて、何も言わずににこりと笑う。
「それに、女子校の出身なのバレてるでしょ?」
「あ?じゃあ、嵐山は?」
「小6の時だけ・・・中1の途中で退学したから」
「退学?」
「怪我で入院して出席日数足りなくなって、別の学校で1年生からやり直したから、実は1つ年上」
「はあ?」
その反応に、くすくすと笑う。
「学校の連中にいう必要ないでしょ、そこまで。それに、成田が送り迎えするのも、さっきの写真も辻褄が合ってくるでしょ?」
勇樹が悠宇ならば、松原は当然のこと、成田と桜井とも当然知り合い。
「まぢかよ」
麟はつぶやいた。
「そういうことで、私が水沢勇樹なのはナイショで」
右人差し指を軽く唇にあて、ウインクをする・・・まさに「ナイショ」のポーズだ。
「了解」
正直、麟の気持ちは「もうお手上げです」状態だった。





途中のあとがき

いやぁ・・・こんなに気づかないでいられるのか、それがナゾだったりします。

基本的に、麟は鈍いっつーか、興味がないことにはまーったく盲目なので、水沢だって思ったら、それ以上でも以下でもないっていうことなんですけどね。
同じ学校に行ってますが、麟はチャリで要達と待ち合わせもあるし早めに出るし、悠宇は充槻がバイク送るのでちょっと遅め。
だから制服姿もみなかったってワケだけど、帰り・・・悠宇、カバンの中にスウェットとか隠し持ってたのかな?

こーゆー事の積み重ねで、麟は「ボケキャラ」になっていったんですよね、私の中で(笑
ま、そう思ってくださいv

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