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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 「はあ?」

 「はあ?」
その台詞を聞いた瞬間、俺はありえない位の声をだした。
「何だって?」
「耳、遠くなったのか?疾風」
「黙ってろ!」
即、怒鳴り返した。
その勢いに、さすがの成田も閉口した、らしい。
高3の1学期の終了式の日の午後。
当然のように悠宇を迎えに来た成田と3人で、遅めの昼食を一緒にとっていたときの事だった。
この夏休みの間に、車の免許を取りに行くと言う。
それも、短期の合宿で。
成田と一緒に。
「受験は?」
「受ければいいだけ、なんだよね」
申し訳なさそうな表情で、悠宇は言った。
随分前に聞いたが、大学は必ず戻ってくるという条件付けで、悠宇は高校を都立にできたらしい。
それほどにまでに、私立の学校側が欲しがった生徒・・・もちろんそれは、悠宇の背後にあるものを含めてのことだと言うのは、簡単に分った。
「・・・ってことは、聖華蘭?」
「うん」
「うわ。お嬢様校じゃん」
すかさず口を挟んだ成田の声のトーンが、少し上がった。
「中学、そこだったんだけど。言わなかった?」
「忘れた」
「有里もそこ。今も」
「へえ。意外」
「で?免許?」
話が反れる予感がしてきた。
「時間あるから、いいかなぁって」
そーゆー問題か?
「で?成田と一緒に?」
「うん」
マジか?
「なんで?」
「え?」
「だから。コイツ1人で他所の土地行ったら危ないだろ」
「お前と一緒の方が危ないんじゃないのか?」
「そりゃ、ごもっとも」
あっさりと成田は言った。
当たり前だ!
「でもまぁ、そーゆーイミじゃないのは、わかってるよな?疾風」
「・・・」
俺は言葉に詰まった。
くっそー。
ムダだ、何言っても・・・すでに分かりきっていた。
だからと言って、男と一緒に合宿制の免許を取りに行くといわれて、何も言わないでいられるほど、俺はできてない。
「・・・いつから?」
「8月に入ったら」
「信じらんねー」
そう愚痴を言うだけで、その場はどうにか納めた。

その、夜のこと。
風呂も終え、自分で買いなおしたローベッドの上に成績表や返ってきた試験の答案用紙、模試の結果などを広げていると、ドアがノックされた。
「どーぞ」
「麟?」
おずおずと、悠宇が入ってくる。
「なに?」
ざっとプリント類を束ねてから枕元に置いて座りなおすと、正面に悠宇が正座し、両手をそっと右膝に置いてきた。
「ごめんね」
「なにが?」
「あの・・・」
そこで、口ごもる。
「別にいいよ」
言いたいことは、分かってた。
だからこそ、ため息をつく。
「言ってることも、もっともだし」
「でも、怒ったでしょ」
「・・・ちょっとね」
そう言うと、悠宇は俯いた。
悪気はないのは、分かってる・・・というか、天然だ。
成田を信頼しきっているというか、男扱いしてないのも、改めて分かった。
まあ・・・成田がどう思っているかは、別のレヴェルだが。
もう一度ため息をつくと、俺は悠宇を抱き寄せた。
「麟?」
「・・・」
そのまま、抱き締める。
「まだ、怒ってる?」
「いや」
そっと背中に回された腕に、安堵を覚えた。
「でもふつーは、やんないよな」
「・・・ごめん」
背中の手が、Tシャツを握り締めたのが伝わる。
もういいよ。
俺は泣かせたいわけでも、困らせたいわけでもない。
「気をつけていってこいよ」
「・・・」
体を離そうとすると、悠宇の腕が、離れようとしなかった。
「?」
珍しいこともあるもんだと思いながら、そっと右手で髪をなぜると、ややあってからゆっくりと体が離れた。
「まだ、怒ってる?」
上目遣いで、すがるような視線・・・やめろって、そんな表情すんな。
「怒ってない」
「・・・ほんとに?」
「ああ」
そんな表情されて、怒り続けられるオトコがどこにいるってんだよ。
「俺が免許取る時には、コツとか教えろよ?」
「うん」
顔を寄せると、悠宇はいつものように大人しく目を閉じた。
軽く口付けると、消え入りそうな声で、俺の名前を呼んだ。
あーあ、俺の負けだって。

そして・・・合宿に行き、合宿から帰ってきた悠宇と成田は、すぐに免許を取得した。
合宿中に数回、成田からこれみよがしな2ショット写メ付きのメールが届いた。
例えば、こんな。
『安心しろ、疾風。なんにもしてねーから。信じるか信じないかは、お前の勝手だけど。つーか、あんな無防備なヤツに、手ぇだせるか。ばーか』
正直、むかついた。
そして明後日で夏休みが終わるという夜、
「明日。車が届くから」
そう言って悠宇はにこりと笑い、成田にも連絡をいれた。
そして次の日の午後、予想をしていない・・・いや、予想を遥かに超えた事が起こった。
「は?」
「をい」
マンションの地下駐車場に停められていた車を見て、俺たちは絶句した。
「?」
何も分かってない悠宇は、1人で首を傾げた。
「悠宇。なんて言って、車買ったんだ?」
「え?」
「なんて、信宗さんに言った?」
「免許取ったから車が欲しい、って」
「それでコレか?」
成田が、呆れ顔でその車を指差した。
「せめて国産にしろよな」
俺は額に右手を当てた。
悠宇が「車が欲しい」と言っただけで用意された車は、BMWの3シリーズのカブリオレの赤で、もちろん新車だった。
なに考えてるんだ、あの人は?
「コレに若葉付けて乗るのか?」
「お笑い種だな」
「俺、乗りたくねー」
「え?どうして?」
「水沢。この車の値段、知らねーだろ?」
「うん」
あっさりと首を縦に振る。
「勉強しろ」
「?」
「これだから、女は怖い」
「言えてる」
珍しく、成田と意見が一致した。



オマケ



昼メシを食わせてもらってから帰る時、律儀にいつも、水沢は玄関まで送ってくれる。
ちっ・・・なんでこれで、俺のオンナじゃないかな。
ちょうど運よく、疾風は来ない。
「水沢」
「ん?」
あがりかまちの上にたたずむその左腕を、すこし引き寄せた。
「疾風、拗ねてるから機嫌直してやれよ」
「わかってる」
そうは言っても、表情は晴れない。
「ベッドの上でな」
「!?」
ついでに頬にキスをすると、それに驚いたのか、台詞に驚いたのか、言葉を失っていた。
あーあ。
ナニやってんだ、俺?
でもまあ、疾風からかうのもおもしれーし。
水沢がうれしそーなら、満足だし。
あとはまあ・・・まるで俺のオンナだって顔で、合宿中面倒みてやるよ。
この借りは高いぞ、疾風。





あとがき

高3の夏休みに免許を取りに行く・・・これ、やりたかったなぁ。
最悪、冬休みとか。
ああ、夢…(*゜。゜)m。★.::・'゜☆

このネタも夏のネタなので、アップしてしまおう!と思い立ちました。
ちなみに題名「5.4X8.5」は、免許の大きさ。
今年、書き換えがあって、その時に「免許の大きさってどの位?」と思い立ってから、このネタが降りてきて・・・。
車はあると便利ですね。
免許取ったこと、今でも「よかった〜」と思ってます。

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