オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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もともとしてあった約束をすっぽかして、室田はそこに向かっていた。
もともとしてあった約束をすっぽかして、室田はそこに向かっていた。
ゴールデンウィーク・・・いくらも時間が取れることを理由に。
これで2度目のお見舞い。
「勝手知ったる」といわんばかりの振る舞いで、室田はその病室の前に来て、立ち止まった。
人の気配は、ない。
・・・ってことは、誰かとバッティングすることはないってことか。
そう思い安心してから、室田はドアを叩いた。
「どーぞー」
一応返事を待ってからドアを開けると、ベッドの中で上半身を起こしていた小さな体が目に入ってきた。
軽く目が見開かれた、その表情の主・・・水沢 勇樹。
その名前を初めて聞いたのは、高2と高3の間の春休みで、つい先日のこと。
柔道の腕をかられてスカウトされ、横浜の嵐山高校の寮に入っていた同級生の美作 大樹は、春休みだからと実家へもどってきた時だった。
「水沢 勇樹?」
よくたむろするコンビニで深夜に話し込んでいた時、その名前を美作が口に出した。
スポーツ進学校とも言える嵐山には、なぜか気の強い・・・というか、負けず嫌いで短気なヤツが多く、そのうちに暗黙の了解的な「強いヤツに従う」ルールができたらしい。
ガタイがよくて目立つ美作は、結果的にケンカNo.1の座についたらしい。
「あの、威勢のいい後輩はどーした?」
去年の夏休みに、連れてきた後輩を思い出して聞く。
「松原?ありゃ、ダメだ」
けらけらと笑った。
「やる気だけはいいけどな。で、その水沢に喧嘩売ったら負けてさ」
「はぁ?」
笑わずにいられず、思わず室田は噴出した。
「お陰で大人しくなったよ」
「アレが、か?」
「水沢の性格だろうな。あいつが適任だよ、俺の後は」
同級生の美作が気に入り、かわいい弟でもできたかのように話した「水沢 勇樹」に、室田は興味を覚えた。
「よぉ」
軽く右手を上げると、
「あ・・・どうも」
と言いながら、あどけない表情の勇樹が軽く頭を下げた。
テーブルを押しのけて、室田はまた前回と同じように、ベッドの端に向かい合わせになるようにして腰掛けた。
「で?調子は?」
「えーと・・・頭には異常がないって。あとは骨折だけ」
軽く微笑む。
「美作や松原は?」
「んー?来る時は突然だし」
「・・・だろうな」
特に松原ならやりかねないと、室田は納得した。
「俺の名前、覚えてる?」
「室田 瞳」
「大変よくできました」
からかうと、それがわかった様で、
「やなヤツ」
と笑いながら返した。
そして前回と同じ様に、室田は勇樹に手を伸ばした。
「額の傷、治ったんだ」
そっと前髪を掻きあげるが、警戒心、まるでゼロ。
「え?あ・・・まあ、一応」
「って言うかさ」
室田は手を離しながら、溜め息をついた。
「水沢さぁ、警戒しないわけ?」
「?」
無邪気に、首を傾ける。
「俺と会ったの、まだ2度目だろ?」
「うん」
「けが人なんだしさ、なんかされたらどーすんだよ?一人部屋だしさ」
「そーゆーつもり、あんの?」
「いや。ないけど」
俺はね・・・と、一応心の中で言った。
「それに、室田って美作先輩の友達なんだよね?」
「そんなモンだけどさ」
「それなのに、俺に手を上げんの?」
「そーゆー問題か?」
室田が言うと、勇樹は軽く溜め息をついた。
「じゃ。やりたきゃやれば?」
そう言いながら顔を上げた勇樹の表情を見て、室田は息を呑んだ。
「タダでやられるつもりはないけど」
意志の強い、目。
利き腕と左足を骨折してベッドに縛り付けられてるってのに、中1の小娘が、こんな表情するかよ?ふつー。
そして瞬間的に、室田は美作が言った言葉を思い出した。
「水沢が適任」
なるほどねぇ。
美作も気に入るわけだよと思いつつ、室田は溜め息をついた。
「冗談だよ・・・」
そう言って、室田は爽やかに笑った。
途中のあとがき
昨年、てきとーできる仕事の合間を縫って、がんがん書き溜めたのが、このcrosswise。
「YOUKI 1」「YOUKI x HITOMI」は書き溜めですが、この「HITOMI 1」は書下ろしです。
(そう書くと、えらそうですね・笑)
勇樹と瞳が出会うシーンは病院のシーンと決まっていて・・・でも、なぜ瞳が勇樹に興味を持って、勇樹に近づいたのか。
その背景がずえんずえんありませんでした。
ので、書下ろし。
そういう話は難産ですが、書き終わると充実感があります。
お楽しみいただければ、幸いです。
ゴールデンウィーク・・・いくらも時間が取れることを理由に。
これで2度目のお見舞い。
「勝手知ったる」といわんばかりの振る舞いで、室田はその病室の前に来て、立ち止まった。
人の気配は、ない。
・・・ってことは、誰かとバッティングすることはないってことか。
そう思い安心してから、室田はドアを叩いた。
「どーぞー」
一応返事を待ってからドアを開けると、ベッドの中で上半身を起こしていた小さな体が目に入ってきた。
軽く目が見開かれた、その表情の主・・・水沢 勇樹。
その名前を初めて聞いたのは、高2と高3の間の春休みで、つい先日のこと。
柔道の腕をかられてスカウトされ、横浜の嵐山高校の寮に入っていた同級生の美作 大樹は、春休みだからと実家へもどってきた時だった。
「水沢 勇樹?」
よくたむろするコンビニで深夜に話し込んでいた時、その名前を美作が口に出した。
スポーツ進学校とも言える嵐山には、なぜか気の強い・・・というか、負けず嫌いで短気なヤツが多く、そのうちに暗黙の了解的な「強いヤツに従う」ルールができたらしい。
ガタイがよくて目立つ美作は、結果的にケンカNo.1の座についたらしい。
「あの、威勢のいい後輩はどーした?」
去年の夏休みに、連れてきた後輩を思い出して聞く。
「松原?ありゃ、ダメだ」
けらけらと笑った。
「やる気だけはいいけどな。で、その水沢に喧嘩売ったら負けてさ」
「はぁ?」
笑わずにいられず、思わず室田は噴出した。
「お陰で大人しくなったよ」
「アレが、か?」
「水沢の性格だろうな。あいつが適任だよ、俺の後は」
同級生の美作が気に入り、かわいい弟でもできたかのように話した「水沢 勇樹」に、室田は興味を覚えた。
「よぉ」
軽く右手を上げると、
「あ・・・どうも」
と言いながら、あどけない表情の勇樹が軽く頭を下げた。
テーブルを押しのけて、室田はまた前回と同じように、ベッドの端に向かい合わせになるようにして腰掛けた。
「で?調子は?」
「えーと・・・頭には異常がないって。あとは骨折だけ」
軽く微笑む。
「美作や松原は?」
「んー?来る時は突然だし」
「・・・だろうな」
特に松原ならやりかねないと、室田は納得した。
「俺の名前、覚えてる?」
「室田 瞳」
「大変よくできました」
からかうと、それがわかった様で、
「やなヤツ」
と笑いながら返した。
そして前回と同じ様に、室田は勇樹に手を伸ばした。
「額の傷、治ったんだ」
そっと前髪を掻きあげるが、警戒心、まるでゼロ。
「え?あ・・・まあ、一応」
「って言うかさ」
室田は手を離しながら、溜め息をついた。
「水沢さぁ、警戒しないわけ?」
「?」
無邪気に、首を傾ける。
「俺と会ったの、まだ2度目だろ?」
「うん」
「けが人なんだしさ、なんかされたらどーすんだよ?一人部屋だしさ」
「そーゆーつもり、あんの?」
「いや。ないけど」
俺はね・・・と、一応心の中で言った。
「それに、室田って美作先輩の友達なんだよね?」
「そんなモンだけどさ」
「それなのに、俺に手を上げんの?」
「そーゆー問題か?」
室田が言うと、勇樹は軽く溜め息をついた。
「じゃ。やりたきゃやれば?」
そう言いながら顔を上げた勇樹の表情を見て、室田は息を呑んだ。
「タダでやられるつもりはないけど」
意志の強い、目。
利き腕と左足を骨折してベッドに縛り付けられてるってのに、中1の小娘が、こんな表情するかよ?ふつー。
そして瞬間的に、室田は美作が言った言葉を思い出した。
「水沢が適任」
なるほどねぇ。
美作も気に入るわけだよと思いつつ、室田は溜め息をついた。
「冗談だよ・・・」
そう言って、室田は爽やかに笑った。
途中のあとがき
昨年、てきとーできる仕事の合間を縫って、がんがん書き溜めたのが、このcrosswise。
「YOUKI 1」「YOUKI x HITOMI」は書き溜めですが、この「HITOMI 1」は書下ろしです。
(そう書くと、えらそうですね・笑)
勇樹と瞳が出会うシーンは病院のシーンと決まっていて・・・でも、なぜ瞳が勇樹に興味を持って、勇樹に近づいたのか。
その背景がずえんずえんありませんでした。
ので、書下ろし。
そういう話は難産ですが、書き終わると充実感があります。
お楽しみいただければ、幸いです。
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