オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
そして、7月27日。
そして、7月27日。
夕方4時ころ、室田はひょっこり現れた。
「あら。ちょうど良かったわ、室田君。お夕飯、一緒に食べて行ってね」
台所で夕飯を作っている勇樹の母親にそう言われ、さすがに一瞬戸惑った。
「いや・・・でも」
「今日、勇樹のお誕生日なの。一緒にお祝いしましょ」
にっこり笑ってそう言われ、思わず頷いたのだった。
勇樹の方は勇樹で
「ありえない・・・」
と、頭を抱えた。
夕食が終わってから、頃合を見て帰ると言い出した室田を
「そこまで送ってく」
と言って、勇樹は乗ってきたバイクの隣で帰り支度を始めた室田のそばに近寄る。
「後ろに乗るか?それならエンジンかけないけど」
まだ足の骨折が完全に直っていない勇樹を気遣って、言いながら振り返る。
「うん」
勇樹は起用にもすばやく足をかけて、シートに横座りになる。
それを見てからスタンドをはずし、玄関にいる勇樹の母親に
「どうもありがとうございました」
と深々と頭を下げると、ゆっくりバイクを押し始めた。
ややあってから、室田の押すバイクのシートから、背中に向かって何度目かの質問を勇樹は言った。
「なあ、室田」
「ん?」
「あのさぁ。なんでうちにくんの?」
「迷惑?」
「いや・・・あの、そうじゃなくって」
そう返されると思っていなくて、勇樹は次の言葉が出なかった。
「俺はさ、もう進路決まってんだよね」
「え?」
「俺、高3なんだけど」
言いながら、勇樹の顔を見る。
その表情は「知ってた?」と言わんばかりだった。
「進路が決まってるヤツってあんまりいなくてさ。受験だの就活だので忙しくて、遊んでくれるヤツいないんだよね」
「・・・」
つまりは、暇つぶしの相手に選ばれたのか?と、勇樹は思った。
「それも理由の一つだけどさ・・・水沢に会いたいから来てるんだけど?」
「それって・・・」
会いたくない相手を選ぶわけはないから当然だろうと思いつつも、勇樹はその言葉の真意をイマイチ汲み取れないでいた。
「曲がるから揺れるぞ」
「あ。うん」
室田は右側にハンドルを切り、大通りから3ブロックほど入った公園の中へ入っていった。
かなり前に作られたこの公園は、周りをぐるりと十分に育ったコニファに囲まれ、ブランコ・滑り台・砂場のある、昼間はちびっ子とそのママさんでにぎわっている公園だった。
2箇所ある入り口の一つから入り、ちょうど遊具のない角へバイクを停めようとする。
「スタンドを立てるから、揺れるぞ」
「あ、はい」
その揺れに落とされないよう、手近なところにつかまり、あわや落下という危機を逃れた勇樹。
しかしその次には、それ以上に予想していないことがおこった。
「むろ・・・た?」
バイクを停めた室田の両腕の中に、勇樹は包まれていた。
「えっと。あの・・・その・・・室田?」
「さっき・・・」
「え?」
「さっき俺が言ったこと、聞いてた?」
「え?」
少し、室田が体を離す。
「水沢に会いたいから来たっての、本当なんだけど」
笑みを浮かべて言う室田をみて、勇樹は少し赤くなった。
「いや・・・あの、そうなんだろうけど」
「好きだから、会いにきた」
「え?」
その言葉に、勇樹の表情が固まる。
「好きだよ、水沢」
「・・・」
固まっていた勇樹の表情は、次第に戸惑いへと変わる。
「あの。でも、俺、男だし・・・」
それは、とっさに思いついたウソだった。
嵐山学園は、れっきとした男子校であるが故の。
「女だろ?」
「え・・・」
くすりと笑うと、室田は言った。
「見れば分かるよ。気づかない嵐山の連中が、まぬけなんだよ」
「どうして・・・」
そっと髪をなぜながら、室田は答える。
「どうしてって・・・水沢、かわいいから」
「かわいい?」
告白されたこと自体もそうだったが、かわいいと言われた事にも、驚きの表情を隠せない勇樹。
「水沢は、かわいいよ」
やんわりとした笑顔で返す。
事実、勇樹にはマスコット的ともいえるかわいさがあった。
嵐山でうまくやっていける理由は、そこにあった・・・テキトーに可愛がられていたのだった。
5つも年下でそんなに会っていない水沢に対して、室田自身もまさかそんな気持ちになるとは思っていなかった。
なんでこんなにも気なるのか・・・自分自身、それが知りたくてここ数日会いに来ていた結果、やっと思いに気づいたのだった。
「水沢・・・」
そっと、顔を近づける。
それが何か分かっている勇樹は、慌てて両腕で室田を押し返した。
「あの・・・でも、室田ならもっと美人で同い年の人とか」
「ん?」
「年下すぎるし」
「分ってるって」
「近所に居るわけでもないし」
「まあね」
「それに、もっといい女の人が・・・」
「水沢!」
軽く怒鳴られ、瞬時に勇樹は身を硬くする。
「俺は、お前が好きなんだけど?」
もう一度、正面から言われて勇樹は何も言えなくなった。
「俺の言ってること、ちゃんと聞けよ」
「・・・ごめん」
大人しく謝った勇樹をみて軽くため息をつくと、室田は右手を勇樹の頬に添えた。
「水沢・・・俺のこと、嫌いか?」
「別に嫌いってわけじゃ・・・」
「そっか。それならよかった」
にこりと笑うと、改めて顔を寄せた。
「好きだ、水沢・・・」
勇樹はほんの少し体とあごを引きながら、きつく目を閉じた。
そして、軽く唇が触れ合った。
勇樹はゆっくりと目を開けると、室田と目を合わせることもできなく左手で口元を押さえ、下を向きながら室田の右肩に顔をうずめた。
室田はまた、柔らかく勇樹を抱きしめた。
「戸惑うのもわかるけどさ。とりあえず、夏休みの間は会いに来るから」
「・・・」
「水沢」
そっと体を離し、髪をなぜていた右手で口元を覆っていた勇樹の左手をそっと握り、顔を覗き込む。
「また明日、会いに来るから」
「・・・はい」
つぶやくような小さな返事を聞くと、もう一度だけ、室田は唇を重ねた。
途中のあとがき
犯罪だよね、犯罪・・・とか言いながら、書いてます(笑
はるか昔に最初に引いた設定では、もちろんこんな展開はあるはずもなく。
この先の話が決まってから、時間を巻き戻すようにして、こうなってしまいました。
もともと、瞳は勇樹が気に入っていたから、ちょうど良かったといえばそうなんですけどねぇ。
そしてこれを書きながら、こんな会話ってありそうでなさそう・・・と想像しました。
美作 「え?勇樹に手ぇだしたのか?」
室田 「まあ」
美作 「まあ、ってお前」
室田 「だってほら、かわいいし」
美作 「そーゆー問題か?」
室田 「あー。犯罪とかって言う?」
美作 「それもあるけど、また松原に噛み付かれるぞ」
室田 「え?あ・・・あいつ、オンナの趣味は悪くないんだ」
美作 「頼むから、場外乱闘するなよ」
室田 「大丈夫。松原がケンカ売ってきたら、返り討ちにすっから」
美作 「をい!」
室田 「俺があんな小僧に負けるかよ」
美作 「をいをい・・・勘弁してくれよ」
とてもオフレコ的な会話、ですね(笑
でも、こういう妄想が一番楽しかったりします(汗
次もまた瞳編の予定ですが、お楽しみいただければ幸いです。
夕方4時ころ、室田はひょっこり現れた。
「あら。ちょうど良かったわ、室田君。お夕飯、一緒に食べて行ってね」
台所で夕飯を作っている勇樹の母親にそう言われ、さすがに一瞬戸惑った。
「いや・・・でも」
「今日、勇樹のお誕生日なの。一緒にお祝いしましょ」
にっこり笑ってそう言われ、思わず頷いたのだった。
勇樹の方は勇樹で
「ありえない・・・」
と、頭を抱えた。
夕食が終わってから、頃合を見て帰ると言い出した室田を
「そこまで送ってく」
と言って、勇樹は乗ってきたバイクの隣で帰り支度を始めた室田のそばに近寄る。
「後ろに乗るか?それならエンジンかけないけど」
まだ足の骨折が完全に直っていない勇樹を気遣って、言いながら振り返る。
「うん」
勇樹は起用にもすばやく足をかけて、シートに横座りになる。
それを見てからスタンドをはずし、玄関にいる勇樹の母親に
「どうもありがとうございました」
と深々と頭を下げると、ゆっくりバイクを押し始めた。
ややあってから、室田の押すバイクのシートから、背中に向かって何度目かの質問を勇樹は言った。
「なあ、室田」
「ん?」
「あのさぁ。なんでうちにくんの?」
「迷惑?」
「いや・・・あの、そうじゃなくって」
そう返されると思っていなくて、勇樹は次の言葉が出なかった。
「俺はさ、もう進路決まってんだよね」
「え?」
「俺、高3なんだけど」
言いながら、勇樹の顔を見る。
その表情は「知ってた?」と言わんばかりだった。
「進路が決まってるヤツってあんまりいなくてさ。受験だの就活だので忙しくて、遊んでくれるヤツいないんだよね」
「・・・」
つまりは、暇つぶしの相手に選ばれたのか?と、勇樹は思った。
「それも理由の一つだけどさ・・・水沢に会いたいから来てるんだけど?」
「それって・・・」
会いたくない相手を選ぶわけはないから当然だろうと思いつつも、勇樹はその言葉の真意をイマイチ汲み取れないでいた。
「曲がるから揺れるぞ」
「あ。うん」
室田は右側にハンドルを切り、大通りから3ブロックほど入った公園の中へ入っていった。
かなり前に作られたこの公園は、周りをぐるりと十分に育ったコニファに囲まれ、ブランコ・滑り台・砂場のある、昼間はちびっ子とそのママさんでにぎわっている公園だった。
2箇所ある入り口の一つから入り、ちょうど遊具のない角へバイクを停めようとする。
「スタンドを立てるから、揺れるぞ」
「あ、はい」
その揺れに落とされないよう、手近なところにつかまり、あわや落下という危機を逃れた勇樹。
しかしその次には、それ以上に予想していないことがおこった。
「むろ・・・た?」
バイクを停めた室田の両腕の中に、勇樹は包まれていた。
「えっと。あの・・・その・・・室田?」
「さっき・・・」
「え?」
「さっき俺が言ったこと、聞いてた?」
「え?」
少し、室田が体を離す。
「水沢に会いたいから来たっての、本当なんだけど」
笑みを浮かべて言う室田をみて、勇樹は少し赤くなった。
「いや・・・あの、そうなんだろうけど」
「好きだから、会いにきた」
「え?」
その言葉に、勇樹の表情が固まる。
「好きだよ、水沢」
「・・・」
固まっていた勇樹の表情は、次第に戸惑いへと変わる。
「あの。でも、俺、男だし・・・」
それは、とっさに思いついたウソだった。
嵐山学園は、れっきとした男子校であるが故の。
「女だろ?」
「え・・・」
くすりと笑うと、室田は言った。
「見れば分かるよ。気づかない嵐山の連中が、まぬけなんだよ」
「どうして・・・」
そっと髪をなぜながら、室田は答える。
「どうしてって・・・水沢、かわいいから」
「かわいい?」
告白されたこと自体もそうだったが、かわいいと言われた事にも、驚きの表情を隠せない勇樹。
「水沢は、かわいいよ」
やんわりとした笑顔で返す。
事実、勇樹にはマスコット的ともいえるかわいさがあった。
嵐山でうまくやっていける理由は、そこにあった・・・テキトーに可愛がられていたのだった。
5つも年下でそんなに会っていない水沢に対して、室田自身もまさかそんな気持ちになるとは思っていなかった。
なんでこんなにも気なるのか・・・自分自身、それが知りたくてここ数日会いに来ていた結果、やっと思いに気づいたのだった。
「水沢・・・」
そっと、顔を近づける。
それが何か分かっている勇樹は、慌てて両腕で室田を押し返した。
「あの・・・でも、室田ならもっと美人で同い年の人とか」
「ん?」
「年下すぎるし」
「分ってるって」
「近所に居るわけでもないし」
「まあね」
「それに、もっといい女の人が・・・」
「水沢!」
軽く怒鳴られ、瞬時に勇樹は身を硬くする。
「俺は、お前が好きなんだけど?」
もう一度、正面から言われて勇樹は何も言えなくなった。
「俺の言ってること、ちゃんと聞けよ」
「・・・ごめん」
大人しく謝った勇樹をみて軽くため息をつくと、室田は右手を勇樹の頬に添えた。
「水沢・・・俺のこと、嫌いか?」
「別に嫌いってわけじゃ・・・」
「そっか。それならよかった」
にこりと笑うと、改めて顔を寄せた。
「好きだ、水沢・・・」
勇樹はほんの少し体とあごを引きながら、きつく目を閉じた。
そして、軽く唇が触れ合った。
勇樹はゆっくりと目を開けると、室田と目を合わせることもできなく左手で口元を押さえ、下を向きながら室田の右肩に顔をうずめた。
室田はまた、柔らかく勇樹を抱きしめた。
「戸惑うのもわかるけどさ。とりあえず、夏休みの間は会いに来るから」
「・・・」
「水沢」
そっと体を離し、髪をなぜていた右手で口元を覆っていた勇樹の左手をそっと握り、顔を覗き込む。
「また明日、会いに来るから」
「・・・はい」
つぶやくような小さな返事を聞くと、もう一度だけ、室田は唇を重ねた。
途中のあとがき
犯罪だよね、犯罪・・・とか言いながら、書いてます(笑
はるか昔に最初に引いた設定では、もちろんこんな展開はあるはずもなく。
この先の話が決まってから、時間を巻き戻すようにして、こうなってしまいました。
もともと、瞳は勇樹が気に入っていたから、ちょうど良かったといえばそうなんですけどねぇ。
そしてこれを書きながら、こんな会話ってありそうでなさそう・・・と想像しました。
美作 「え?勇樹に手ぇだしたのか?」
室田 「まあ」
美作 「まあ、ってお前」
室田 「だってほら、かわいいし」
美作 「そーゆー問題か?」
室田 「あー。犯罪とかって言う?」
美作 「それもあるけど、また松原に噛み付かれるぞ」
室田 「え?あ・・・あいつ、オンナの趣味は悪くないんだ」
美作 「頼むから、場外乱闘するなよ」
室田 「大丈夫。松原がケンカ売ってきたら、返り討ちにすっから」
美作 「をい!」
室田 「俺があんな小僧に負けるかよ」
美作 「をいをい・・・勘弁してくれよ」
とてもオフレコ的な会話、ですね(笑
でも、こういう妄想が一番楽しかったりします(汗
次もまた瞳編の予定ですが、お楽しみいただければ幸いです。
PR
この記事にコメントする