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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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友人からのメアド変更のメールに携帯をいじっていた充槻は、電話帖の中のその名前を見てふと、手を止めた。

友人からのメアド変更のメールに携帯をいじっていた充槻は、電話帖の中のその名前を見てふと、手を止めた。
連絡はなんとなく取っているが、殆ど会ってない男。
「あいつ、前の水沢知ってるよな?」
そう確信して、充槻は電話をかけた。
「よう」
「成田?」
相手は、室田 瞳だった。
「今、ケガで戦線離脱してるんだってな」
「相変わらず親切だな、お前」
くすくすと笑いながらの返事。
「レース出てないなら、ヒマだろ?出てこれるよな」
「まあ・・・」
「ちょっと、あって欲しいヤツがいるんだ」

充槻が室田と初めて会ったのは、ただ単に地元でケンカが強いだけで、同じような者同士で繋がりがあることなど知らない頃だった。
それが変わったのは、先輩である酒井田の柔道の大会を、なんとなく見に行った時だった。
そこには、自分の同級生を応援に来た松原 臣人。
自分の後輩たちが出ているからと来た美作 大樹。
高校を卒業してからバイクのレーサーになった室田 瞳はそこそこ忙しく、たまたま時間があったからと、美作に会うために来た。
その3人に、偶然引き合わされた。
何かと噛み付く臣人から離れるためにも、その場では室田と充槻がそばにいることが多く、
「お前、いいやつだな」
と言われ、なぜか充槻は室田に気に入られた。

「で?会って欲しいのって、誰?」
待ち合わせの場所に来ると、10〜20人近くが集まり、ざわざわとしていた。
ざっと見渡したところ、大抵はいつもの見知った連中。
特に用はない・・・ただ単に、集まってしゃべったりなどしてるだけで気がすむ。
ほんの少し離れたところから、その集団を二人で見つめる。
「俺が急に呼び出したからって、そんなに不機嫌になるなよ」
表情一つ変えずに、充槻は返した。
「知らないヤツなんて、新人くらいだろ?」
「・・・」
年上のことだけあってか、細かい説明をしなくても平気な相手・・・室田といるのは、居心地の悪いものじゃなかった。
ややあってから、充槻はその集団の左端のほうを指差した。
「?」
そこには、見知った顔があった・・・主に嵐山の連中だった。
その中に−−−。
「おんな?」
後姿で顔は見えないが、肩甲骨の下まで伸びた髪、多少大きめで体のラインを隠している様にも見える丈の長めのトレーナーに、細めのジーンズ。そして、スニーカー。
華奢な男とも見えなくはなかったが、室田の目にはどうみても女にしか見えなかった。
「松原の女?」
「いや、違う。顔見れば分かるぜ」
「?」
すると偶然、その女のすぐ隣にいた臣人に、誰かが耳打ちする・・・そして臣人と同時に、その女が振り返る。
あからさまに不快な表情をする臣人と、その隣で表情を固まらせたその女。
「会って欲しいって・・・あれ、水沢?」
室田の声は、すこし震えていた。
「そ・・・」
煙と一緒に、答えを吐き出す充槻。
「4年くらい音信不通だったらしいけど、今年になってひょっこり顔を出して。その後、女だったってカミングアウトしやがった」
そして、示し合わせたわけでもなく歩み寄ってくる臣人に、充槻は片手を挙げて挨拶をした。
「へえ・・・もう会わねーと思ってたけど」
敵意むき出しの表情で、臣人は室田を見る。
相変わらず仲、悪いのか・・・と充槻は心の中でつぶやく。
室田が仕切っていた山梨が横浜・嵐山の下についた経緯は、当時噂になったと酒井田から聞いていた。
今はさすがに後輩が山梨を仕切っていて、こういう場には出てこないはずの室田にあてる言葉としては、妥当なものだった。
「ちょっと怪我しててね。ヒマなら来いって、成田が」
充槻は、臣人のキツイ視線からさりげなく視線をそらした。
「ふ〜ん。ま、いたいならいろよ」
冷たく言い放つと、さっきまで自分がいたところに戻っていった。
そして・・・。
「水沢?」
「はい・・・」
室田はまっすぐに視線を注ぐが、落とされたままの勇樹の視線は、室田の足先の方から上がっては来なかった。
「・・・元気、だった?」
「うん。室田がちゃんとレースやってるって、聞いてた」
「そっか。ありがと」
「・・・」
やっぱりなんかあるな、充槻は確信する。
「勇樹!」
「はい!」
臣人に呼ばれて、あわてて振り返る。
「じゃあ、また・・・」
軽く手を振って、臣人の方へと駆けていった。
「室田」
「・・・んだよ」
複雑な表情を浮かべている室田に、心の中ですこし「悪いな」と思いつつ、充槻は聞きたかったことを口にした。
「お前、水沢が女って知ってたろ?」
「まあな」
「何でだよ。話せよ」
そう言われ、室田はため息をつくと、ゆっくりと口を開いた。
同級生である美作から名前を聞き、交通事故で入院した勇樹を見舞った話を。

「なあ、成田。水沢の連絡先、知ってるか?」
室田と合流するために行き道に待ち合わせた地元まで来て、いったんお互いにバイクを停めると、まず、室田の方から口を開いてきた。
「そりゃ、一応」
「教えてくれないか」
その横顔は、誰にでも見て取れるほど、真剣なものだった。
「教える位いーけど、テメーで聞けよ」
「?」
室田が見ると、充槻は携帯を取り出して、いくつかボタンを押していた。
「知らねー番号だと、出ねーかもしれないだろ」
差し出された携帯のディスプレイから、呼び出している先が水沢だと分かると、室田は呆然とした顔でそれを受け取った。
「・・・水沢?俺」
その場から少し離れた充槻の背中に、すこし柔らかい室田の声が届く。
「なにやってんだかなぁ、俺」
そうつぶやくと、軽くため息をついた。





途中のあとがき

ある意味「crosswise」の本領発揮、でしょうか?
ここでようやっと、勇樹(悠宇)と瞳と充槻の交点。

かなり悩みました。
男目線から書いてますが、瞳か充充槻か、どっちの目線で書こうかと。
どっちかと言うと、充槻目線の方が書きやすいので「いーか、充槻で」と思いました。
でもまだ、この先を悩んでます。
「悠宇と瞳」だけのシーンもあるわけで、それを入れるとまた長くなるし。
入れないと、せっかく書き溜めた物が出せないし。
ああ・・・悩みは尽きないよぉ。
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