オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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その朝・・・というか、すでにお昼近い時間、充槻は携帯の呼び出し音で起こされた。
その朝・・・というか、すでにお昼近い時間、充槻は携帯の呼び出し音で起こされた。
「・・・誰だよ?」
体を起こすこともしないで手だけで携帯を探して、ディスプレイを見ることもなく、その電話に出た。
「はい?」
「成田?まだ寝てんのかよ?」
寝ぼけた頭でも、その声が誰なのか、充槻はすぐに分かった。
「室田ぁ?」
「もう11時だぞ、起きろ」
その声から、冷やかしてるのが伝わった。
「あ?もうそんな時間かよ?」
「どうせお前のことだから、女とよろしくやって寝不足なんだろ」
以前なら、そうだっただろう。
「ちげーよ。女は全部切ったから」
「へぇ・・・」
信じられないとでも言いたげな雰囲気が、伝わってきた。
「で?なに?」
「ああ・・・俺、1月3日まで時間空いたんだわ」
「付き合えってか?」
「まあ、そんなところだ」
「かわいそーなヤツ。女誘えよ、女」
「そんな冷たいこと言わないでよぉ、充槻クン」
けらけらと笑いながら、そう言ってきた。
「ばーか・・・付き合ってやるよ」
そしてまた結局、室田が充槻の家のほうに来ることになり、駅前にある居酒屋の片隅に落ち着いた。
「で?成田は今、何やってんの?」
開口一番、そう来た。
「高3。4月から専門学校」
「へえ・・・」
その顔には「意外」と書いてあった。
「他の連中は?」
「松原や御園は大学(うえ)に上がった。月野と境も上だな、たぶん。そんで、桜井や水沢や疾風は、来年受験だって」
「疾風?」
「ああ・・・知らないんだっけ?」
言った後から「そうだろうなぁ」と思い直しながら充槻はウーロン茶を飲んだ。
「あんまり顔ださねーやつなんだけど、ウワサじゃぁ俺の後釜とか言われてるヤツだよ。俺とはデキが違うけど」
「へえ」
「いいヤツだぜ。頭もいいし・・・詳しくは知らねーけど、どこかの金持ちのお坊ちゃんらしい」
「ふーん」
あまり、興味はないらしい表情を作った。
「今・・・水沢と付き合ってる」
そう言うと、
「え?」
と、一瞬、室田の動きが止まった。
室田にとっては予想外のことだったらしく、言葉が出てこない様子だった。
「あ・・・写メくらいあるぜ。見るか?」
返事も待たずに携帯を探し、その写真をディスプレイに出してから、室田に渡した。
「水沢が機種変した時、試し撮りされたのを貰ったんだよ」
その写メには、充槻と麟の二人だけが写っていた。
悠宇が携帯の機種変をしようかなぁと言い出した時、充槻はそれに付き合い、その後、悠宇のマンションで新機種の操作をあれこれ教えたのだった。
その時に、何かを撮りたいと言った悠宇の被写体に、二人がなったという経緯があった。
「水沢の同級生で、鷹ノ台に行ってる。あと、桜井とは中学が一緒だったって」
「・・・」
「からかうと面白くてさ」
けらけらと充槻は笑った。
「名前、何だっけ?はやて?」
「そう。疾風 麟」
「そっか・・・」
そう言いながら、室田は携帯を返してきた。
「あの水沢が振り向いたくらいだから、大したヤツだよ」
「勇樹が?」
その表情は、いままでと少し違う驚きの色だった。
「あ・・・呼び出してみる?」
「へ?」
予想もしてない言葉に、再度室田が固まった。
「桜井をダシに使って、呼び出してみるよ」
言いながらすでに、桜井の番号をプッシュしていた。
そして、約30分後。
「隊長!任務完了であります!」
桜井は二人が座っているテーブルの所まで来ると、右手で敬礼をした。
その左手では、がっちりと麟の右腕を掴んで。
腕を掴まれたままの麟は、誰かと電話していた。
「うむ、ご苦労!」
充槻は右手を挙げた。
麟を充槻の横に座らせると、正義は室田の横に座った。
「お久しぶりです」
ちょこんとお辞儀をする。
「悪いね、呼び出して」
「ぜんぜん大丈夫です」
にこりと笑った。
そして麟は、電話を終えると成田に向かってまず、噛み付いた。
「何で俺を巻き込むんだよ、お前は」
「いーじゃねぇか、近所なんだし」
「他のヤツ誘えよ」
「うるせぇな・・・どーせヒマなんだから付き合えよ」
「ヒマじゃねーって」
そういった矢先、テーブルに置いてあった麟の携帯が鳴った。
「あ、薫?何?」
その台詞に「おい、女かよ?」と充槻と室田は心の中で突っ込んだ。
「そう、明日帰る・・・お土産?品川駅で?・・・はぁ?紗姫に俺は宅配屋じゃねぇって言っとけよ。あったら買って帰るから・・・ああ、わかった。じゃあな」
何か納得いかない、といった表情で、麟は電話を切った。
「何、京都に帰るの?」
すかさず正義が聞く。
「明日な。それを聞いた薫が、お土産買って来いって」
「薫って、幼馴染とかってヤツだっけ?」
「誰だよ、それ」
そこで充槻は口を挟んだ。
「薫?ああ・・・コイツだよ」
そう言って、ムリヤリ貼られたと説明しながら、携帯を裏返して充槻に手渡した。
携帯の裏に貼られたというプリクラには、仏頂面の麟を右腕、にこにこと笑った男を左腕に絡めた上機嫌の女が写っていた。
「この女は?」
「薫の彼女で紗姫」
「面白い名前だな。男なのにかおる、って」
そう言いながら、充槻は室田に携帯を渡した。
渡された室田がそのプリクラを覗き込むと、正義もまた覗きこんだ。
その時、ようやっと麟が「あれ?」と言った表情を作った。
「あ?これ、嵐山の美作の地元のヤツで、室田」
「え?」
「はじめまして」
麟にこりと笑いながら、ついでに室田は携帯を返した。
「こちらこそ、はじめまして」
ひょこっと頭を下げる。
「で?そのダチが土産?」
充槻が続ける。
「いや。薫の彼女の紗姫が、品川駅にしかないお土産を買って来いって・・・あ」
再び、麟の携帯が鳴った。
「藤原ぁ?何の用だよ?・・・ああ、帰るよ・・・あ?そんなこと、薫と勝手に決めとけよ・・・だーかーらー!俺には決定権も拒否権もない事くらい分かってんだから、いちいち聞くなよ・・・覚えておくから、勝手にしとけ・・・じゃあな」
殆ど一方的とも思える雰囲気で、麟は電話を切った。
「今度は誰?」
正義が聞く。
「薫の後輩・・・なんか、新年だから酒盛りしようって」
「相変わらず、大変だね」
「まーな」
その言葉を聞いて、正義はけらけらと笑った。
「さっき、京都に『帰る』って言ったよね?」
正義は麟と中学時代仲良かったこともあっていろいろと事情は知っているが、他の二人は何も知らない。
当たり前だが特に、室田はそうだった。
「あ・・・母親の実家が京都なんで」
「あと、麟は小学校半分は京都だったんですよ」
正義が変わって答える。
「帰って来いって、新幹線のチケット送りつけられて、帰るしかないってゆーか」
うんざりとした顔をした。
「どーせ、あれこれ挨拶回りに引きずり回されて疲れて終わり、だっつーのに」
「そー言えばさぁ。中3の修学旅行のとき、麟、拉致られていなかったもんな」
「で?いつまで行ってくんだよ?」
「明日行って、4日には帰る」
「へぇ。その間、彼女は置き去りなんだ」
室田のその台詞には、充槻も絶句した。
「お前、そーゆーコト聞くか?」
「え?麟、彼女いたの?」
「うるせーよ」
麟はすこし照れたような表情を作り、それを見て、室田はくすりと笑った。
「彼女と初詣とか行かないの?」
「向こうも実家に帰るし」
「クリスマスは?」
「俺、バイトだったし」
「うわ」
思わず室田は閉口した。
「呆れてモノも言えねーな。しっかり捕まえとけって言ったろ?」
「なに、成田。お前、そんなコトまで世話やいてんの?」
「麟の彼女、それでよく文句言わないね」
「うるせーって」
照れ隠しなのか、勝手に正義が頼んでおいたウーロン茶に口をつけた。
「随分と物分りのいい彼女なんだねぇ」
からかうようにそう言うと、麟は室田を軽く睨んだ。
「着物着てもらって、初詣でも行けばいいのに」
「あー。それいいかも」
充槻が考え込み、次の瞬間、こう言い放った。
「俺が相手、しといてやるよ」
「は?」
その台詞に、麟が固まる。
「どーせ初詣行くなら、い〜いオンナと一緒の方がいいからな」
「お前もイヤなヤツだなぁ」
室田がくすくす笑いながら言う。
「え?成田も麟の彼女、知ってるの?」
「知ってるも何も・・・」
そこまで言ってから、充槻は口をつぐんで麟に視線を送った。
「・・・」
麟は視線を逸らして、黙秘を決め込む。
「お前も知ってるよ」
「え?」
その充槻の台詞に、正義は誰だろう?と考えを巡らす時間に入った。
「まあ。もし行ったらちゃんと写メ送ってやるって」
麟の肩をばしばしと叩く。
「・・・むかつく」
その麟の姿を見ながら、まるで鳩のようにくくくっと室田は笑った。
「もっと反撃すれば?」
「・・・言ってもムダだし」
さらに拗ねる麟に、室田は耐え切れないといった様子で笑い続けた。
「室田。お前、笑いすぎ」
「おかしくてさ・・・」
言葉を投げた充槻の顔を見ながら、さらに笑い続ける。
「いや・・・まいった」
「何言ってんだよ、お前」
冷たい視線を、充槻は投げかける。
「つーか、こーゆーのが好みだったわけね」
「好み?」
正義が首を傾げる。
「あー。そーゆーハナシな」
充槻の表情が少し変わる。
「松原に任せておくのは癪だったし、コレはコレでいいかも」
「ヨユーだな、お前。それに、ミョーな納得すんなよ」
「お前がいいヤツって言うわけだよ」
「そうかよ」
くすくすと笑い続ける室田に、充槻は当たり前のように返答する。
「そうそう。疾風くん、勇樹は元気?」
不意に矛先が変わる。
「悠宇?まあ、元気ですけど?」
悠宇・・・そう麟が呼んだ事で、言葉には表現できない何かを感じ取った。
麟は麟で、何故悠宇のことを聞いたのか、要領の得ない顔をした。
そして突然、
「あ!」
と、声上げ、正義が固まった。
「あ?気づいた?」
また、くすりと室田が笑う。
「お前もけっこー鈍いな」
「え?・・・って、まさか?」
「その、まさかなんだってさ」
その室田の台詞に、正義は呆然と麟の顔を見つめた。
「・・・なんだよ?」
麟が睨み返す。
「まさか、麟、水沢と付き合ってんの?」
「だったら?」
「あ、開き直ってる」
くすくすと笑う室田。
「え?マジで?」
「桜井。お前知ったなら、協力しろよ」
「え?何を?」
充槻の台詞に慌てる。
「松原にバレないように協力しろ、っての」
「え?だって、松原と水沢って・・・」
「付き合ってるようにみえるか?」
「・・・いや、あまり」
変に納得する。
「バレたら血を見るぞ」
完全に室田は、からかいモードだった。
「ま!まさ、かぁぁ・・・って、松原ならありえる」
考え込む、正義。
「でも、疾風くんもいい度胸だよ。まあ、勇樹と松原が離れているから、いいけど」
「そーですか」
完全に、拗ねる。
「一応、気をつけたほうがいいよ。あれで、松原の実家ヤクザだから」
「え?」
この言葉には、3人が固まった。
「あ?知らない?一応ヤクザの三男だよ、松原。土建屋やってるだけの、小さな組らしいけど」
「まぢでか?」
「一応」
にこりと笑う。
「あの無鉄砲さは、それか」
充槻がため息をつく。
「でもまあ、疾風に噛み付かないからな、松原」
「変に信用されてない?」
「安全パイなんだよ、きっと。まあ、松原の目は節穴だけど」
あくまでも、室田の態度は明るい。
「よかったねぇ、疾風くん。味方が多くて」
「そーですね」
その態度に、またまた室田は笑う。
「男に言うのもヘンだけど、かわいいよ」
「ぶっ!」
思わず噴出した充槻は、思いっきりツボに入ったらしく笑い転げていた。
「だから言ったろ?いいヤツだって」
笑いながら、それでも充槻は言った。
「まあこれで、いい正月が迎えられるよ」
にこりと笑う室田に、
「そうだな」
と返して、室田と充槻の2人は、麟に視線を送った。
あとがき
「Ein Dreieck」とは、ドイツ語で三角。
瞳と充槻と麟の3人の意味ですが・・・なんか違うかも?
設定は、麟が高2、充槻が高3の冬休みの12月30日辺りの設定。
なんつーかこう、同じ女の子を好きになったからこそ、何かどこかで分かり合えてたらうれしいなってゆーか。
その子を取られても、でもそれで納得して見守って(からかって?)くれてたらうれしいなってゆーか。
まあ、をとめのもーそーですよ(爆
時期が時期なので、アップしたまでのこと。
お楽しみいただければ幸いです。
「・・・誰だよ?」
体を起こすこともしないで手だけで携帯を探して、ディスプレイを見ることもなく、その電話に出た。
「はい?」
「成田?まだ寝てんのかよ?」
寝ぼけた頭でも、その声が誰なのか、充槻はすぐに分かった。
「室田ぁ?」
「もう11時だぞ、起きろ」
その声から、冷やかしてるのが伝わった。
「あ?もうそんな時間かよ?」
「どうせお前のことだから、女とよろしくやって寝不足なんだろ」
以前なら、そうだっただろう。
「ちげーよ。女は全部切ったから」
「へぇ・・・」
信じられないとでも言いたげな雰囲気が、伝わってきた。
「で?なに?」
「ああ・・・俺、1月3日まで時間空いたんだわ」
「付き合えってか?」
「まあ、そんなところだ」
「かわいそーなヤツ。女誘えよ、女」
「そんな冷たいこと言わないでよぉ、充槻クン」
けらけらと笑いながら、そう言ってきた。
「ばーか・・・付き合ってやるよ」
そしてまた結局、室田が充槻の家のほうに来ることになり、駅前にある居酒屋の片隅に落ち着いた。
「で?成田は今、何やってんの?」
開口一番、そう来た。
「高3。4月から専門学校」
「へえ・・・」
その顔には「意外」と書いてあった。
「他の連中は?」
「松原や御園は大学(うえ)に上がった。月野と境も上だな、たぶん。そんで、桜井や水沢や疾風は、来年受験だって」
「疾風?」
「ああ・・・知らないんだっけ?」
言った後から「そうだろうなぁ」と思い直しながら充槻はウーロン茶を飲んだ。
「あんまり顔ださねーやつなんだけど、ウワサじゃぁ俺の後釜とか言われてるヤツだよ。俺とはデキが違うけど」
「へえ」
「いいヤツだぜ。頭もいいし・・・詳しくは知らねーけど、どこかの金持ちのお坊ちゃんらしい」
「ふーん」
あまり、興味はないらしい表情を作った。
「今・・・水沢と付き合ってる」
そう言うと、
「え?」
と、一瞬、室田の動きが止まった。
室田にとっては予想外のことだったらしく、言葉が出てこない様子だった。
「あ・・・写メくらいあるぜ。見るか?」
返事も待たずに携帯を探し、その写真をディスプレイに出してから、室田に渡した。
「水沢が機種変した時、試し撮りされたのを貰ったんだよ」
その写メには、充槻と麟の二人だけが写っていた。
悠宇が携帯の機種変をしようかなぁと言い出した時、充槻はそれに付き合い、その後、悠宇のマンションで新機種の操作をあれこれ教えたのだった。
その時に、何かを撮りたいと言った悠宇の被写体に、二人がなったという経緯があった。
「水沢の同級生で、鷹ノ台に行ってる。あと、桜井とは中学が一緒だったって」
「・・・」
「からかうと面白くてさ」
けらけらと充槻は笑った。
「名前、何だっけ?はやて?」
「そう。疾風 麟」
「そっか・・・」
そう言いながら、室田は携帯を返してきた。
「あの水沢が振り向いたくらいだから、大したヤツだよ」
「勇樹が?」
その表情は、いままでと少し違う驚きの色だった。
「あ・・・呼び出してみる?」
「へ?」
予想もしてない言葉に、再度室田が固まった。
「桜井をダシに使って、呼び出してみるよ」
言いながらすでに、桜井の番号をプッシュしていた。
そして、約30分後。
「隊長!任務完了であります!」
桜井は二人が座っているテーブルの所まで来ると、右手で敬礼をした。
その左手では、がっちりと麟の右腕を掴んで。
腕を掴まれたままの麟は、誰かと電話していた。
「うむ、ご苦労!」
充槻は右手を挙げた。
麟を充槻の横に座らせると、正義は室田の横に座った。
「お久しぶりです」
ちょこんとお辞儀をする。
「悪いね、呼び出して」
「ぜんぜん大丈夫です」
にこりと笑った。
そして麟は、電話を終えると成田に向かってまず、噛み付いた。
「何で俺を巻き込むんだよ、お前は」
「いーじゃねぇか、近所なんだし」
「他のヤツ誘えよ」
「うるせぇな・・・どーせヒマなんだから付き合えよ」
「ヒマじゃねーって」
そういった矢先、テーブルに置いてあった麟の携帯が鳴った。
「あ、薫?何?」
その台詞に「おい、女かよ?」と充槻と室田は心の中で突っ込んだ。
「そう、明日帰る・・・お土産?品川駅で?・・・はぁ?紗姫に俺は宅配屋じゃねぇって言っとけよ。あったら買って帰るから・・・ああ、わかった。じゃあな」
何か納得いかない、といった表情で、麟は電話を切った。
「何、京都に帰るの?」
すかさず正義が聞く。
「明日な。それを聞いた薫が、お土産買って来いって」
「薫って、幼馴染とかってヤツだっけ?」
「誰だよ、それ」
そこで充槻は口を挟んだ。
「薫?ああ・・・コイツだよ」
そう言って、ムリヤリ貼られたと説明しながら、携帯を裏返して充槻に手渡した。
携帯の裏に貼られたというプリクラには、仏頂面の麟を右腕、にこにこと笑った男を左腕に絡めた上機嫌の女が写っていた。
「この女は?」
「薫の彼女で紗姫」
「面白い名前だな。男なのにかおる、って」
そう言いながら、充槻は室田に携帯を渡した。
渡された室田がそのプリクラを覗き込むと、正義もまた覗きこんだ。
その時、ようやっと麟が「あれ?」と言った表情を作った。
「あ?これ、嵐山の美作の地元のヤツで、室田」
「え?」
「はじめまして」
麟にこりと笑いながら、ついでに室田は携帯を返した。
「こちらこそ、はじめまして」
ひょこっと頭を下げる。
「で?そのダチが土産?」
充槻が続ける。
「いや。薫の彼女の紗姫が、品川駅にしかないお土産を買って来いって・・・あ」
再び、麟の携帯が鳴った。
「藤原ぁ?何の用だよ?・・・ああ、帰るよ・・・あ?そんなこと、薫と勝手に決めとけよ・・・だーかーらー!俺には決定権も拒否権もない事くらい分かってんだから、いちいち聞くなよ・・・覚えておくから、勝手にしとけ・・・じゃあな」
殆ど一方的とも思える雰囲気で、麟は電話を切った。
「今度は誰?」
正義が聞く。
「薫の後輩・・・なんか、新年だから酒盛りしようって」
「相変わらず、大変だね」
「まーな」
その言葉を聞いて、正義はけらけらと笑った。
「さっき、京都に『帰る』って言ったよね?」
正義は麟と中学時代仲良かったこともあっていろいろと事情は知っているが、他の二人は何も知らない。
当たり前だが特に、室田はそうだった。
「あ・・・母親の実家が京都なんで」
「あと、麟は小学校半分は京都だったんですよ」
正義が変わって答える。
「帰って来いって、新幹線のチケット送りつけられて、帰るしかないってゆーか」
うんざりとした顔をした。
「どーせ、あれこれ挨拶回りに引きずり回されて疲れて終わり、だっつーのに」
「そー言えばさぁ。中3の修学旅行のとき、麟、拉致られていなかったもんな」
「で?いつまで行ってくんだよ?」
「明日行って、4日には帰る」
「へぇ。その間、彼女は置き去りなんだ」
室田のその台詞には、充槻も絶句した。
「お前、そーゆーコト聞くか?」
「え?麟、彼女いたの?」
「うるせーよ」
麟はすこし照れたような表情を作り、それを見て、室田はくすりと笑った。
「彼女と初詣とか行かないの?」
「向こうも実家に帰るし」
「クリスマスは?」
「俺、バイトだったし」
「うわ」
思わず室田は閉口した。
「呆れてモノも言えねーな。しっかり捕まえとけって言ったろ?」
「なに、成田。お前、そんなコトまで世話やいてんの?」
「麟の彼女、それでよく文句言わないね」
「うるせーって」
照れ隠しなのか、勝手に正義が頼んでおいたウーロン茶に口をつけた。
「随分と物分りのいい彼女なんだねぇ」
からかうようにそう言うと、麟は室田を軽く睨んだ。
「着物着てもらって、初詣でも行けばいいのに」
「あー。それいいかも」
充槻が考え込み、次の瞬間、こう言い放った。
「俺が相手、しといてやるよ」
「は?」
その台詞に、麟が固まる。
「どーせ初詣行くなら、い〜いオンナと一緒の方がいいからな」
「お前もイヤなヤツだなぁ」
室田がくすくす笑いながら言う。
「え?成田も麟の彼女、知ってるの?」
「知ってるも何も・・・」
そこまで言ってから、充槻は口をつぐんで麟に視線を送った。
「・・・」
麟は視線を逸らして、黙秘を決め込む。
「お前も知ってるよ」
「え?」
その充槻の台詞に、正義は誰だろう?と考えを巡らす時間に入った。
「まあ。もし行ったらちゃんと写メ送ってやるって」
麟の肩をばしばしと叩く。
「・・・むかつく」
その麟の姿を見ながら、まるで鳩のようにくくくっと室田は笑った。
「もっと反撃すれば?」
「・・・言ってもムダだし」
さらに拗ねる麟に、室田は耐え切れないといった様子で笑い続けた。
「室田。お前、笑いすぎ」
「おかしくてさ・・・」
言葉を投げた充槻の顔を見ながら、さらに笑い続ける。
「いや・・・まいった」
「何言ってんだよ、お前」
冷たい視線を、充槻は投げかける。
「つーか、こーゆーのが好みだったわけね」
「好み?」
正義が首を傾げる。
「あー。そーゆーハナシな」
充槻の表情が少し変わる。
「松原に任せておくのは癪だったし、コレはコレでいいかも」
「ヨユーだな、お前。それに、ミョーな納得すんなよ」
「お前がいいヤツって言うわけだよ」
「そうかよ」
くすくすと笑い続ける室田に、充槻は当たり前のように返答する。
「そうそう。疾風くん、勇樹は元気?」
不意に矛先が変わる。
「悠宇?まあ、元気ですけど?」
悠宇・・・そう麟が呼んだ事で、言葉には表現できない何かを感じ取った。
麟は麟で、何故悠宇のことを聞いたのか、要領の得ない顔をした。
そして突然、
「あ!」
と、声上げ、正義が固まった。
「あ?気づいた?」
また、くすりと室田が笑う。
「お前もけっこー鈍いな」
「え?・・・って、まさか?」
「その、まさかなんだってさ」
その室田の台詞に、正義は呆然と麟の顔を見つめた。
「・・・なんだよ?」
麟が睨み返す。
「まさか、麟、水沢と付き合ってんの?」
「だったら?」
「あ、開き直ってる」
くすくすと笑う室田。
「え?マジで?」
「桜井。お前知ったなら、協力しろよ」
「え?何を?」
充槻の台詞に慌てる。
「松原にバレないように協力しろ、っての」
「え?だって、松原と水沢って・・・」
「付き合ってるようにみえるか?」
「・・・いや、あまり」
変に納得する。
「バレたら血を見るぞ」
完全に室田は、からかいモードだった。
「ま!まさ、かぁぁ・・・って、松原ならありえる」
考え込む、正義。
「でも、疾風くんもいい度胸だよ。まあ、勇樹と松原が離れているから、いいけど」
「そーですか」
完全に、拗ねる。
「一応、気をつけたほうがいいよ。あれで、松原の実家ヤクザだから」
「え?」
この言葉には、3人が固まった。
「あ?知らない?一応ヤクザの三男だよ、松原。土建屋やってるだけの、小さな組らしいけど」
「まぢでか?」
「一応」
にこりと笑う。
「あの無鉄砲さは、それか」
充槻がため息をつく。
「でもまあ、疾風に噛み付かないからな、松原」
「変に信用されてない?」
「安全パイなんだよ、きっと。まあ、松原の目は節穴だけど」
あくまでも、室田の態度は明るい。
「よかったねぇ、疾風くん。味方が多くて」
「そーですね」
その態度に、またまた室田は笑う。
「男に言うのもヘンだけど、かわいいよ」
「ぶっ!」
思わず噴出した充槻は、思いっきりツボに入ったらしく笑い転げていた。
「だから言ったろ?いいヤツだって」
笑いながら、それでも充槻は言った。
「まあこれで、いい正月が迎えられるよ」
にこりと笑う室田に、
「そうだな」
と返して、室田と充槻の2人は、麟に視線を送った。
あとがき
「Ein Dreieck」とは、ドイツ語で三角。
瞳と充槻と麟の3人の意味ですが・・・なんか違うかも?
設定は、麟が高2、充槻が高3の冬休みの12月30日辺りの設定。
なんつーかこう、同じ女の子を好きになったからこそ、何かどこかで分かり合えてたらうれしいなってゆーか。
その子を取られても、でもそれで納得して見守って(からかって?)くれてたらうれしいなってゆーか。
まあ、をとめのもーそーですよ(爆
時期が時期なので、アップしたまでのこと。
お楽しみいただければ幸いです。
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