powder sugar

　お盆の時期に合わせて京都に帰ってきたのをいいことに、麟の部屋に泊り込ませてもらうのは、これで何度目のことか。

　お盆の時期に合わせて京都に帰ってきたのをいいことに、麟の部屋に泊り込ませてもらうのは、これで何度目のことか。
いつものようにお菓子を買い込んで、ただなんてこともない話に花を咲かせる。
もちろん、時間も忘れて。
そんな、たわいもない話をしていた時、ふと口にしたその名前のせいで、麟の態度が少し変わった。
「人の恋路を邪魔するものは・・・」とは言うものの、気になってしまうのは、仕方のないことで。
何度目かのため息をついた後、いい加減にして欲しいなぁと思いつつ、薫は麟に問いかけた。
「どしたの？」
「・・・別に」
それは予想していた返事。
聞いて欲しくない雰囲気をかもし出しておきながら、本当は聞いて欲しいことがあるのがこの幼馴染のはずだと確信しつつ、その名前を口にしてみた。
「悠宇ちゃんと何かあったの？」
すぐに返事が返ってこなかったのが、その証拠。
「いや・・・別に」
「ウソつけ、うそ」
バレバレ、だ。
小旅行気分でＧＷに東京へ行って麟の所に転がり込むと、予想外のことがおこっていた。
今までまーったく女に興味がない態度だった幼馴染は、自分がうらやましくも思える様な女に視線を向けていた。
それも、相手も麟を向いているというウラヤマシイ状況で。
ただ一つだけ、相手が悪かったことを除いては。
「付き合ってるんでしょ、ちゃんと」
「・・・」
返事はないけど、知ってる。
その相手だって、俺は知ってるんだし。
「喧嘩でもした？」
「・・・別に」
「ふーん」
テーブルの上に散らばったお菓子の中から、ポテチを見つけ、袋を開ける。
「不満がないなら、なんか相談とかあるんでしょ？そんな顔してる」
パリパリという乾いた音が、部屋中に響く。
「幼馴染をなめるなよ」
言いながら一枚つかんで麟の口元へ持って行くと、ちょっと考えた後に、麟はそのポテチを右手でつまんだ。
「別に、そういうワケじゃ・・・」
乾いた音が少しの間響いた後、人目を盗んでこっそり持ち込んだカラフルな缶に、麟は手を伸ばした。
その中身を一口飲むと、また一つため息をついた。
「だた・・・」
「ただ？」
「ちょっと困ってる」
そう言うと、軽く視線を落とした。
「困る？」
この台詞は、ちょっと予想外だった。
「それ、どーゆー意味？」
あの悠宇ちゃんに限って、麟が困るようなことをするとは考えられず・・・いや、実際付き合っちゃうと意外と違ったり？
「恋愛なんか、しなくていい」
「へっ？！」
悠宇ちゃんに「どう？順調？」ってメールをして、その返事は「大丈夫(^^)」で。
それなのに、なんでそういう言葉が？！
「俺には向いてない」
「え？」
麟が言葉少ないのは今更で、でも、それでも言葉を選んでくれて。
あとは、麟の性格を加味すれば納得がいく言葉が返ってくるのがいつものことで。
でも、今日は麟の言ってる事が・・・言ってることの意味が、まったく伝わってこなかった。
やっぱり、アルコールなんて持ち込まないほうがよかったんだろうか？
「なんつーか・・・砂上の楼閣？」
「え？」
砂上の楼閣・・・ちゃんとした意味は忘れたけど、砂浜に作る砂の城。
波に洗われ、足元から崩れていく城。
「怖いんだよ」
ぼそりと言った麟の表情は、なんとなく嬉しさを含んでいるようにも見え。
「なーんだ」
あの、テキトーに女の子とうまくやっていける喬杞がべた惚れする女・・・麟がかなうはずなんかない。
「うまくいってるんだ」
自分を忘れるくらい、参ってるって？
「は？！」
「そういう意味でしょ？夢中になりすぎて、怖いって」
「・・・」
言われた当の本人は、驚いた顔をしていた。
「麟の足元の砂は、きっと砂糖だよ」
「・・・そう、かも」
そう言って顔を背けた麟の顔が赤かったことは、いうまでもなかった。





あとがき

本来、時間系列などを考えると、これが一番最初に来るんですが、時期が時期だけに順番を入れ替えて掲載しました。
だってこれ、真夏の話だぜ？

次に書く話を考え中なので、まだのっけていない話でお茶を濁す私``r(^^;)ポリポリ
お許しくださいませ