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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 朝・・・麟が起きてから部屋を出てみると、リビングに人の気配も暖房の暖かさもなかった。

 朝・・・麟が起きてから部屋を出てみると、リビングに人の気配も暖房の暖かさもなかった。
「珍しいなぁ」
同居人である悠宇は、大抵、麟よりも早く起きていることが多い。
「コーヒー入れるかぁ」
欠伸をひとつしてから、麟はキッチンに向かった。

特に何も気に留めずにいたが11時近くなり、さすがに「おかしい」と麟は感じた。
自分の知らぬ夜中に、外出した可能性はアリ。
そのせいで寝ているのは、大アリ。
朝帰りの可能性は・・・きわめて低い。
「んー」
一応、と思って小さく悠宇の部屋をノックしてから、そっとドアを開けた。
部屋の真ん中の、大きなベッドにには、明らかに人がいる凹凸があった。
寝てるのか?
そう思って近づくと、こちらに背中を向けて寝ていた悠宇が、ゆっくりと寝返りを打った。
「悠宇?」
ぽやんとした表情に、麟の理性がぐらつく。
その感情を押し殺してベッドの端に腰かけて、そっと髪をなぜる。
「・・・」
返事の代わりに、けだるい視線が返ってきた。
「どーした?」
「ん・・・」
真上を向いた悠宇は、ゆっくりと右手の甲を自分の額に当てた。
「ちょっと、熱、あるかも」
「え?」
「ちょっと、ダルい」
それは、予想してなかった言葉だった。
「熱、測ったか?」
「ううん。起きるの、めんどーで」
その言葉を聞いて、麟は少し反省をする。
もう少し、早く様子を見に来ればよかったと。
「体温計、持ってくるよ」
言いながら、そっと右手で悠宇の首筋に触れると、いつもよりも熱が高い感触が確かにした。

「・・・ほれ」
一旦リビングに戻って体温計を取って返すと、また、ベッドの端に座りながら体温計を差し出した。
「ありがと」
大人しくわきの下に体温計を挟む悠宇の額に、冷蔵庫から取ってきたヒエピタを張ってやる。
「んなカッコで寝るからだよ」
たとえ室内でも、ある程度気温が下がってくるこの時期に、キャミソールで寝ているらしい。
熱を測るためにシーツから出した肩と腕が、季節感を忘れているかのように錯覚させる。
その左肩にそっと手を伸ばすと、やはり、熱を持っているようだった。
ピピッと電子音がして、ゆっくりと悠宇は体温計を手に取った。
「んー」
軽くため息をつく。
無言で麟が「貸せ」とばかりに手を出すと、一瞬躊躇ってから、悠宇は体温計を手渡した。
「38.5?」
「・・・」
バツの悪い顔で、悠宇はもそもそとシーツの中にもぐりこんだ。
「風邪、かもな」
「うん・・・」
次に麟が発する言葉を、怯えるような視線で待った。
「とりあえず、何か食ってから薬だな」
「うん・・・」
「食欲は?」
聞きながら、でも、次に出る言葉を麟は感じ取っていた。
「・・・ない」
消え入りそうな声だ。
「でも、ムリヤリでも食ってもらうからな」
そのキツイ視線に、悠宇はすこし凹んだ。
しかし、次の瞬間にはそのキツイ視線はなくなり、柔らかい弧を描いた。
「待ってろ」
「・・・はぁい」

それから数十分がたち、悠宇がうとうととし始めた頃、ドアが開く気配がした。
「ん?」
ゆるゆると視線を送ると、トレイを持った麟が近づいてくるのが見えた。
「麟?」
「寝てたか?」
「んー。ちょっと、うとうとしてた」
「そっか」
手に持っていたトレイを一旦枕元においてから、またベッドに腰かける。
「お粥作ったけど、食えるか?」
「ん・・・」
ゆっくりと起き上がると、まず、麟がため息をついた。
「上着は?」
「え?」
「そのままじゃ、悪化するぞ」
「うん」
ベッドのベランダ側に放っておいたパジャマの上着を、のらりくらりと拾って手を通してから座りなおすと、麟がそっと額に張り付いた髪を梳かした。
それから、トレイを悠宇の膝の上に置いた。
トレイの上には、一人用の土鍋に入ったお粥と、取り皿と蓮華。
ゴマと子ネギが散らされたお粥を見て、悠宇はなんとなく心が暖かくなった。
「いただきます」
軽く手を合わせてから、ゆっくりと蓮華を手に取った。
「あ・・・おいしい」
一口食べて、悠宇は思わずもらした。
「中華風?」
「え?」
言われた麟のほうが、固まった。
「なんか、味ついてる」
「あ・・・まあ」
不思議そうな表情を浮かべる、麟。
「うち、お粥っていうとこうだったんだけど」
「あ、そうなんだ」
ただの白粥がでてくると思っていた悠宇にとっては、びっくりだった。
もの珍しいお粥に悠宇の食欲は進み、きれいに完食した。
「じゃ、風邪薬持ってくるから」
にこりと笑うと、麟はトレイを手にして、部屋を後にした。
そして薬を悠宇に飲ませると、
「寝てな」
と言って、やんわりと肩を押した。
「何かあったら、呼べよ」
「うん」
にこりと笑うと、悠宇は安心して目を閉じた。

再び悠宇が目覚めた時、辺りを見回すと、すでに日が傾きかけている様子で、室内が薄暗くなっていた。
「随分、寝ちゃったんだ」
ゆっくり体を起こしてみると、下にしていた左肩が、軽く痛かった。
「いて・・・寝すぎかも」
思わず、ため息。
額に手をやると、ひえぴたはすでに温くなっていた。
熱のせいで唇は乾き、のどもざらついていた。
「お水・・・」
ゆるゆるとベッドを離れ、リビングとのドアを開けると、ソファに座っていた麟がすぐに振り向いた。
「悠宇?」
「・・・おはよ」
悠宇は照れた笑いを浮かべて、そう言った。
「起きて平気なのか?」
麟が、言いながら腰を上げる。
「うん・・・ちょっと、のどが渇いた」
「分かった。待ってろ」
にこりと笑うと、麟はキッチンへ足を向けた。
悠宇もその後ろをついて行き、ダイニングテーブルのところで麟を待った。
「あとね、これも変えたい」
言いながら、ぺりぺりとひえぴたをはがした。
「はいよ」
なみなみと飲み物が注がれたグラスと、用済みになったひえぴたを交換すると、悠宇はダイニングのイスに座った。
「あ・・・」
一口飲んでから、じーっとグラスを覗き込んだ。
「なに?」
「うん・・・ポカリだから」
「水よりいいって聞いたから」
「?」
悠宇はことんと小首をかしげる。
「あとは?」
悠宇の前に新たなひえぴたを置きながら、麟は向かいの席に座った。
「んー」
ゆっくりとポカリを飲みながら、ゆるゆると考える様は、まるで子供のようだった。
「夕飯は?」
「あんまり」
「じゃあ、ちょっとでも食いたいものは?」
「んー」
「どーせ、ないんだろ」
そう言った麟の目は、軽く笑っていた。
「・・・むぅ」
悠宇が頬を膨らませると、ぷっと吹き出した。
「じゃ、風呂は?」
「入りたい」
「沸いてるよ」
「麟は?」
「病人優先」
その笑顔に、悠宇は大人しく従う意外の行動を、思いつかなかった。

悠宇がお風呂からあがりリビングへ戻ってくると、キッチンでたばこを吸っていた麟に呼び止められた。
「なに?」
「・・・ほれ」
カウンターの上に置かれる、飲み物が注がれたグラス。
「ありがと」
その意図と、すぐに汲み取る。
風邪を引いている時などは、水分を取ったほうがいい。
中身はやはり、ポカリで。
「それ飲んだから、湯冷めする前にさっさとベッドに入れよ」
「うん」
「いいもの、持ってってやるから」
「?」
意味ありげな表情の麟を見て、悠宇は首を傾けた。

そして悠宇がベッドに入って待っていると、ノックがされてから、麟が入ってきた。
「ほら。これ位なら、食えるだろ」
手に持っていた陶器の器を差し出す。
「ん?」
受け取ると、それはじんわりと冷えていた。
「アイス?」
「そ」
にこりと笑いながら、ベッドの端に腰かけた。
陶器の器には、さっぱりとしたヨーグルト味のアイスにブルーベリーのジャムがかかっていた。
「どーせオンナは別腹とか言って、調子悪くても、こーゆーのは入るからな」
「あはは」
苦笑いするしかない。
「で?調子は?」
「うん、随分楽になった」
「そっか」
「ありがとね、麟」
「?」
「1人だったら、ちょっと辛かったかも」
そう言うと、麟はそっと悠宇の髪に手を伸ばした。
「お互い様、ってことで」
「・・・」
「ま、それ食ったら薬も飲んでもらうけどな」
「う・・・」
思わず、悠宇は手を止めたくなった。
とは言っても、アイスは熱を持った体にはいつも異常においしく感じ。
カラになった陶器の器と引き換えに、風邪薬と水の入ったグラスを受け取った。
そして麟は、悠宇が薬を飲み終わったのを見届けると、さり気なくグラスを引き取った。
「じゃ、ちゃんと寝てろよ」
軽く髪を撫ぜながら、柔らかく言った。
「うん。ありがと」
にこりと笑う。
と。
悠宇が瞳を閉じる間もなく、そっと唇が触れ合った。
「うつしたら治るってさ」
「麟・・・」
「俺が風邪ひいた時には、看病よろしく」

そして週中に、麟が体調を軽く崩したことは、お約束だった。





あとがき

これは、2人が高2の冬辺りの設定。
まあ、つきあっていれば、これくらいのご愛嬌なお話はアリかな?と思って。
設定的には、初めて悠宇が熱を出して寝込んだ、と思われます。
いやだなーとか思いつつ、こっそり薫に看病に関しての情報を教えてもらう麟・・・ってカンジですね。
薫のことですから、わざとこんなこと言うに違いない。
「ちなみに。うつせば治るよ」
「うつすって・・・そんなにカンタンにうつるか?」
「風邪引いたの、悠宇ちゃんなんでしょ?キスすれば?」
「はあ?!」
「あ〜、ヤるのもいいけど?」
「ふざけんな!そんなことできるか!」
とか、ありそう。

風邪引いたりして寝込んだとき、1人暮らしのときは凹みました。
でも、誰か側にいてくれると、いてくれるだけでも治りが早くなる気がします。
一番の薬は、安心感かもしれませんw
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secret (管理人だけにコメントする。)
あったかですね
こんにちは。
わかるなぁ、こういう安心感。
風邪の必需品は、マッサージ機と湿布とアイスノンとマスクと喉ぬーるスプレーとポカリです。
今年は暖かいせいか、まだ寝込んでいません。
健康が一番ですね。
紅梅 2009/02/10(Tue)13:49:47 編集
Re:あったかですね
紅梅さん、またのコメントありがとうございます。

昨年末は調子悪かったのですが、今年はまずます…一度、寝込みましたが(笑
調子が悪いと気分もへこみますが、誰かそばにいるとうれしいもの。
それを悠宇にわかってもらいたくて書いたお話、でした。

>健康が一番ですね。
ええ、本当に。
紅梅さんも、まだまだ寒い時期なので、お体に気をつけてくださいね。
【2009/02/11 11:54】
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