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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 ゴールデンウィークの前半、疾風が一晩留守にした。

 ゴールデンウィークの前半、疾風が一晩留守にした。
 特に理由は、聞かなかった。
 誰にだって、詮索されたくないことの1つや2つはあるだろうから。
 そして、いなくなった次の日の昼頃、携帯に電話がかかってきた。
 番号を見ると、疾風からだった。
 「はい?」
 『水沢?あのさ、ちょっと頼みがあんだけど』
 「頼み?」
 その声から、いつもとは違う雰囲気を感じた。
 『友達っていうか、幼馴染が来てるんだけど、今晩泊めてもいい?』
 遠慮がちな声。
 「和室に布団もあるし、大丈夫」
 『あと、夕飯なんだけどさ・・・こてこての洋食にして欲しいんだけど』
 「洋食?」
 『和食は食い飽きてるからさ。あ・・・俺、手伝うし』
 あまりに遠慮がちな態度に、思わずくすくすと笑い出してしまった。
 「了解」
 笑いながら言ったとほぼ同時、電話の向こう側から麟を呼ぶ声が聞こえた。
 幼馴染の声、だろうか?
 『じゃ、夕方帰るから』
 返事をする間もなく、電話は切れた。
 「じゃあ、夕飯は何にしようかな」
 笑ったまま携帯閉じ、夕飯のメニューを考えるのが、何故か少し、楽しかった。

 そして夕方。
 ちょうど料理が一段落した時、タイミングよく疾風が帰ってきた気配を感じて「おかえりなさーい」と言いながら、玄関に向かってみた。
 そして玄関で、疾風の後ろにいた人物を見て、思わず動きが止まった。
 「え?」
 疾風の後ろにいたのは、喬杞に紹介されたことのある・・・京都の老舗料亭の跡取り、宇都宮 薫だった。
 「あ?俺、言わなかったっけ、友達連れてくるって」
 「ううん。電話貰った」
 慌てて否定する。
 確かに疾風はそう言ったけど、でもどうして、この人が?
 そして、向こうも固まっているのが分かった・・・知らなかったんだ、何も。
 「俺の幼馴染、薫。同級生の、神崎」
 これは・・・。
 「「はじめまして」」
 本当は一度会っていたことを暗黙の了解で飲み込んで、同時に頭を下げた。

 話によると、疾風の実家が京都と言うのは本当のことらしい。
 とりあえずお茶をしている間に、話をしてくれた・・・主に、薫くんが。
 小学校前半の3年間は京都にいて、小学校こそ違え、毎日のように遊んでいた間柄だと。
 そして疾風は、学校で林や速見と一緒にいるのとは違う表情を作っていた。

 夕飯は、疾風がリクエストしたとおり、こてこての洋食にしてみた。
 それは薫くんのため、だったらしい。
 ガーリックトーストにマリネ、ミモザサラダ、鶏の唐揚げとフライドポテト。
 オニオンスープに、トマトベースのミートボール入りスパゲティ。
 昼間のうちから冷やしておいたコーヒーゼリーをデザートに。
 疾風は軽く引いていたが、薫くんの反応は想像以上だった。
 「すげー!悠宇ちゃん、料理上手いんだね!」
 お子様ランチを目の前にした子供の様な表情。
 「簡単なものばかりだから」
 その反応が面白くて、ふと思いついた事を口にする。
 「明日の朝は、フレンチトーストにする?」
 くすくす笑いながら聞くと、
 「やった!」
 と、諸手をあげて歓迎された。
 食事に惹かれたのか、居心地がよかったのか、薫くんはもう1泊することになった。
 そして2泊目の夜、疾風がお風呂に行き、、二人だけになった時のだった。
 キッチンでお茶を入れていると、薫くんの方から歩み寄ってきた。
 「喬杞は知ってんの、このこと?」
 いつか聞かれるだろうと思っていた言葉と名前。
 葛城 喬杞・・・家同士の都合でそうなった、許婚。
 「まさか・・・」
 「だろうね」
 そう言うと、ため息をついた。
 薫くんとは偶然にもほんの一時会ったこともあり、喬杞から写真も見せられ、いろいろと話を聞いて知っていた。
 「りん」という幼馴染もいるというのも聞いていたけど、まさかそれが疾風だなんて、夢にも思っていなかった。
 薫くんも、そのはず・・・。
 「あと、それだけじゃないんだよね」
 「え?」
 その言葉に、手が止まる。
 「勢見月家って、知ってる?」
 「名前は聞いたことがあるけど」
 「西陣では有名な呉服問屋で、葛城の一族らしいんだけど。悠宇ちゃん、葛城家から着物もらってるでしょ?」
 「うん」
 「全部、勢見月が手配してるはず。で・・・まだもめてるけど、このままだと確実に、麟はそこの家に引き取られる事になる」
 「!?」
 春休みの帰省の事を、思い出す。
 『俺、親戚の家に引き取られるらしいから』
 そう言った。
 その親戚が、勢見月家・・・よりにもよって。
 「俺としてはさ、麟を応援したいんだよね」
 「え?」
 「麟ってさ、あんまり女に興味もたないからさ。せっかく麟が悠宇ちゃんに気があるなら、うまくいって欲しいんだよね」
 「え?」
 まさかそんなこと、あるわけ、ない。
 「疾風、が?まさか・・・」
 「麟見てればわかるよ」
 「薫くん・・・」
 幼馴染である薫くんが、テキトーな事を言うわけがない。
 でも、疾風が?
 「何年、麟を見てると思ってんの?」
 にっこりと笑った。
 「ただ、終わりが見えている恋愛を応援するっていうのも」
 疾風が勢見月の縁者だと分かっていたら、信宗さんだってここのキーを渡さなかっただろう。
 だから、疾風が自分に気があるなんて、信じていいわけがない。
 信じちゃいけない。
 「俺は全部、麟にも喬杞には黙っておくから」
 「そう・・・」
 それ以上、言葉が出てこなかった。





途中のあとがき

 ま、こんなところでしょうか。
 所詮、焚きつけるのは薫の仕事(笑

 これも「by and by」であったシーンの悠宇目線バージョン。
 あわせて読むと、いかに悠宇と薫が麟に対して黙っていたのかって言うのがわかると言う・・・いや、麟も鈍いんですけどね。

 ものすごい初期の設定では、麟はものすごくポーカーフェイスだったんですけど、だんだん性格がゆるくなってきてます。
 角が削れていったっつーか。
 なので、薫に「見てれば分る」ほど隠し事ができない様になってしまってました。
 まあ、麟なんてそんなものよね・・・と言って、逃げるダッシュ!−=≡ヘ(* - -)ノ
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料理
洋食と和食。
和食の方が味付けも難しいかなぁ。奥が深いのはどちらも同じだけど。
この頃すっかり、洋食より和食が口に合うお年頃になってきました。
紅梅 2009/05/15(Fri)12:55:40 編集
Re:料理
こんにちわ・・・いつもいつも、コメント本当にありがとうございます。

私自身は、洋食は、ホワイトソース系のパスタにギブアップした頃から年齢を感じました(笑
薫くんは自宅の料亭のまかない和食ばかりなので、反動で洋食を作ってもらいました。
書いていて自分も、ちょっと胸焼けしそうとか思ってしまいました(笑
【2009/05/16 11:29】
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