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オリジナル小説をぽつぽと書いてゆきます
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 明日から新学期という前日の夜、久しぶりに一緒に夕飯をとることになった。

 明日から新学期という前日の夜、久しぶりに一緒に夕飯をとることになった。
 その食卓で、疾風のほうから口を開いた。
 「そー言えばさ」
 「?」
 「春休み何してた?」
 その視線は、包帯で巻かれた両手に注がれてるのが分かった。
 「色々」
 「それ、答えかよ?」
 「さあ?」
 くすくすと笑って誤魔化した。
 「そう言う疾風こそ、ずっと留守だったじゃん」
 聞かれついでに、自分も聞いてみる・・・疾風は、春休み中殆ど姿を見てなかった。
 それそれで楽な部分もあり。
 その反面、ここにいる限りでは誰と口をきくことは当然なく、少しだけ、寂しい気持ちがないわけではなかった。
 「俺はバイトとか、帰省とか・・・あ。土産はないからな」
 「帰省?」
 その言葉に、違和感を感じて固まった自分に気づいた。
 「俺、親戚の家に引き取られるらしいから」
 「え?」
 あっさりと、疾風はそう言った。
 「一応まだ未成年だから、保護者って必要だろ?」
 「まあ」
 「お袋が死んで、そのことで親戚とオヤジがもめてさ。それで引き取るって話になったんだけど、うまく行ってないらしくて。その親戚の家が、京都でさ」
 「京都?」
 「元々、お袋の実家も京都だからさ」
 「そうなんだ」
 「俺のことを生まれた頃から知ってる人だから、引き取られようがどうなろうが構わないんだけどさ、あの家行くと窮屈でさぁ」
 疾風の目が、遠いところを見る。
 「・・・」
 「俺の部屋なんか、離れなんだぜ。隔離されてるみたいでむかつくんだよ」
 「・・・ごめん。イヤな事聞いて」
 思わず、頭を下げた。
 「いいって」
 そして、麟がため息をついたのが分かった。
 「俺も神崎の事情知ってるし」
 疾風はにっこり笑う・・・笑える場面じゃないだろうに。
 「でも・・・」
 「お互い様」
 と言うものの、お互いに知っているのは大雑把な事だけ。
 だからと言って、詳細を疾風は聞いてくる事はなかった。
 そして勿論、学校でその事を言った素振りもなかった。
 ありがたい存在、であることに違いはなかった。
 「ま。そういう訳で、土産がないことに文句言うなよ」
 「そんなに心狭くないから、お土産ない程度で文句言わないから」
 「でもまあ、次に帰る時があったら、リクエストは聞いてやるから」
 また、疾風は軽く笑みを浮かべた。

 そして始業式。
 疾風とは、また同じクラスになった。
 なにかに・・・なにかに、ちいさく感謝した。

 「春眠暁を覚えず」とはよく言ったもので、なぜだかとても眠くて眠くて、新学期に入って初めての学校のない土曜。
 起きたら、正午を回ってた。
 「ありえない・・・」
 シーツに包まれたまま、手だけ伸ばして確認した目覚ましを元に戻しながら呆然とした。
 それよりも・・・体がだるい。
 寝すぎ、なのかな?
 そんな事を思っていると、部屋のドアがノックされた。
 「どーぞー」
 寝返りを打って仰向けになると、疾風が側に近づいてくる気配がした。
 「どーした?もう昼だぞ」
 言いながら、顔を覗き込んできた。
 表情は、完全にからかっている表情で。
 そして、ベッド脇に腰かけて、見下ろしてくる。
 「珍しいよな」
 「んー。なんかだるくて」
 「風邪?」
 「さあ・・・」
 疾風の手が前髪を掻きあげて額に置かれ、次に、首筋にも当てられる。
 「熱はなさそーだけど」
 あ・・・そんな雰囲気。
 「無理しないで、寝てれば?」
 「ううん。いい」
 もそりと起き上がると、一瞬、疾風が固まったのが分かった。
 そして、視線が逸らされる。
 「?」
 「コーヒー、入れなおすよ」
 言いながら立ち上がる、疾風。
 「うん、ありがと」
 部屋を立ち去ろうとする背中に、言葉を投げる・・・と。
 「神崎」
 「ん?」
 「そんなカッコで寝てると、まじに風邪引くぞ」
 「え?」
 慌てて自分を見やったと同時に、ドアがパタンと閉まった。
 あ・・・そっか。
 その、さらりとした手触りが気持ちよくて、いわゆるランジェリーのキャミソールで寝てしまうクセ。
 それで、疾風が視線を逸らしたんだ。
 「えーっと・・・」
 寮にいた時にはなかった事・・・というか、そもそも、寮にいたときはまだ子供だった。
 そして、有里が言っていた事を思い出す。
 「大丈夫なの?」
 その、意味。
 「そーゆーこと、かぁ」
 すっかり、そんなことを意識していなかった。
 本人の言うことが事実だったとしても、いくら疾風が女慣れしているとは言え、全く興味がないと言ったわけじゃない。
 「んー」
 それと同時に思い出す、昨夜の出来事。
 叔母さんの家に行って10時頃に帰ってきた、疾風。
 たまたまお風呂上りだったからと玄関に迎えに出ると、不機嫌そのもので。
 「お茶、入れるね」
 と言って身を翻したとたん、だった。
 「?」
 腕をつかまれ、キッチンに行くのを止められた。
 「なに?」
 振り向くと、疾風は切羽詰った様な、今までに見たこともない表情を浮かべていた。
 「疾風?」
 「あ・・・ごめん」
 すぐに謝ったが、掴んだ手は、すぐには離れなかった。
 「やっぱ、マズイんだよ・・・ねぇ」
 そしてその日、最初の溜め息をついた。





途中のあとがき

 まあ、頑張ってくれたまえって、上から目線で思うカンジ。

 さんざん鈍いって書いてきましたが、悠宇もそーとー鈍い。
 っていうか、自分が女だっていう自覚があるようでない。
 設定上仕方がないんですけど(そーゆー悠宇の過去話の設定とか組んであるんですけどねぇ。いつ、日の目を見るのか?)
 時間系列的には「crosswise」で書かれている通りに、瞳と充槻を関係を持ってしまってますが、麟なんてノーマークですからね。
 わはは・・・我ながら、書いていて呆れます。
 ストライクゾーンのめためた狭い悠宇の恋愛対象になるのは、難しいって事ね(笑
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